研究課題
挑戦的萌芽研究
我々は、『可変型遺伝子トラップ法』を開発し、データベース『EGTC』(Databese for the Exchangeable Gene Trap Clones)を全世界に公開している。トラップした遺伝子のアノテーションを行う過程において、染色体特異的にクラスターを形成している新規遺伝子(Chromosome Specific Clustered Trap gene: CSCT)を発見した。プロモータートラップシステムなので、これらのクラスター遺伝子は少なくともES細胞で発現していることが分かる。本研究の目的は、染色体特異的にクラスターを形成しているトラップジーンに関して、クラスター全体を欠損したES細胞を作製してin vitroの解析を行うと同時に、キメラマウスを作製してノックアウトマウスラインを樹立し、個体レベルの表現型解析を行い、これらの新しい遺伝子群の生理機能を明らかにすることである。EGTCに登録しているトラップクローンの中に、染色体特異的なクラスター遺伝子をトラップしているものは少なくとも39クローン(10遺伝子)存在する。本研究においては、クラスター中に含まれるRefSeqの数が最も少ないAyu21-B145 (CSCT9)に焦点を絞り、解析を行う。CSCT9は、マウス13番染色体上の約1.6 Mbpの範囲に全て収まっているので、その領域を全て欠損させる。当初はクラスター領域の上流側と下流側にそれぞれloxP配列をジーンターゲッティング技術でノックインする予定だったが、最近急速に発展しているゲノム編集技術を用いて、一気に欠損させる事にした。また、クラスター内に存在するRefSeq遺伝子、および外側で隣接している遺伝子の、ES細胞における発現をチェックした。
3: やや遅れている
平成25年度は、研究代表者自身が論文博士号を取得するという目標を立て、『Development and analysis of the Exchangeable Gene Trap Clones (EGTC)』というタイトルで熊本大学大学院生命科学研究部に学位申請を行い、生命科学博士号を取得した。そのため、本研究への取り組みが遅くなった事は否定できない。しかしながら、ゲノム編集技術を活用する事で、通常のジーンターゲッティング技術を用いる当初の計画よりもスピードアップしており、既にクラスター領域全体を欠損させたES細胞株の候補を得る事が出来た。現在、野生型Cas9を用いて得た48クローンと、変異型Cas9(D10A)を用いて得た48クローンの候補ES細胞株の解析を行っているところである。また、クラスター領域内のRefSeq遺伝子は、その多くがマウスES細胞においてほとんど発現していなかった。しかしながら、その中のひとつであるZfp640遺伝子に関してはES細胞で発現している事を確認した。Zfp640は、Sorianoグループのジーントラップマウスのホモ接合体において骨形成などに異常があったという記載がMGIに登録されている。この遺伝子に関しても、クラスター内に複数コピー存在しており、単純にトラップしただけで表現型がでるというのは予想外であったが、このことからCSCT9 KOマウスにおいても同様な表現型が観察される可能性が高い。さらに、クラスター領域の外側で隣接しているUqcrb遺伝子について、マウスES細胞での発現を検討している。
クラスター領域全体を欠失させたES細胞株の解析を行う。ES細胞レベルの表現型観察と併行して、キメラマウス作製、マウスライン樹立を行い、個体レベルの表現型解析を行う。また、クラスター内に存在するZfp640, Gm10324, Ayu21-B145および隣接しているUqcrb遺伝子の、ES細胞及びマウス個体における発現パターンを詳細に解析し、CSCT9 KOマウスの表現型との相関を調べる。正常マウスにおけるCSCT9などの転写レベルが非常に低いにも係らず何らかの表現型が観察された場合、CSCT9はRNAまたはタンパク質としてではなく、ゲノム上のDNA配列そのものが機能している可能性を示唆しており、その可能性を検討する。さらに、クラスター領域内、及びその周辺領域のエピジェネティックな修飾がどうなっているのかを解析し、表現型との相関を検討する。
(1)平成25年度は、研究代表者自身の学位取得を最大の目標としたため、本研究への取り組みが遅くなった。(2)研究代表者が獲得している科研費基盤研究B『可変型遺伝子トラップクローンを利用したCre-driverマウスの作製』(平成23~25年度)で雇用している技術補佐員を、平成26年度は本研究費で雇用する事を想定し、平成25年度に受領した金額の一部を使用せずに残す事にした。(3)平成25年度の学会参加費は、前記基盤Bから支出した。これまで基盤Bの研究テーマについて働いていた技術補佐員を本研究テーマにつけ、研究のスピードアップを図る。そのために人件費・謝金(約60万円)を支出する。それ以外は、当初の計画通り、物品費(約90万円)、旅費(約10万円)、その他(約10万円)に使用する。
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