研究課題
我々は、「可変型遺伝子トラップ法」を開発し、データベース「EGTC」(Database for the Exchangeable Gene Trap Clones)を全世界に公開している。トラップした遺伝子のアノテーションを行う過程において、染色体特異的にクラスターを形成している遺伝子(Chromosome Specific Clustered Trap region: CSCT)を発見した。本研究の目的は、トラップクローンの解析により明らかになった特殊な構造を示す領域を欠損させたマウスラインを樹立し、その個体レベルの表現型を解析し、生理機能を明らかにすることである。EGTCに登録しているトラップクローンの中に、染色体特異的なクラスター遺伝子をトラップしているものは少なくとも27クローン(領域としては4種類)存在する。本研究においては、クラスター中に含まれるRefSeqの数が最も少ない、Ayu21-B145 (CSCT13)に焦点を絞り、解析を進めている。CSCT13は、マウス13番染色体上の約1.6 Mbpの領域に全て納まっているので、ゲノム編集技術を用いて1.6 Mbpを欠損させたES細胞株を作製した。このES細胞株を用いてキメラマウスを作製し、マウスラインを樹立した。このCSCT13を欠損したマウスラインにおいてヘテロ接合体同士の交配を行ったところ、まだプレリミナリーな結果であるが、ほぼメンデル則に従ってホモ接合体を得ることができた。現在、詳細な表現型解析をスタートしたところである。
2: おおむね順調に進展している
ゲノム編集技術の中のCRISPR/Cas9 Systemを用いて、CSCT13領域全体(約1.6 Mbp)を欠損したES細胞株の作製に成功した。得られたES細胞株を用いてキメラマウスを作製し、マウスラインを樹立した。EGTCではプロモータートラップを行っており、トラップされた遺伝子は少なくともES細胞で発現していることが分かる。従って、発生初期に働く遺伝子がトラップされることも多い。当初、CSCT13ノックアウトマウス(ホモ接合体)は正常に生まれてこない可能性が高いと予想し、発生のどの段階で異常が起きるのかを調べ、その原因を追求することで生理機能の解析を行う予定であった。また、レスキュー実験も想定していた。しかしながら、驚くべきことに、ヘテロ接合体同士の交配を行ったところ、メンデル則にほぼ従う形でホモ接合体の産仔を得ることができた。現在、得られたホモ接合体マウスに異常が無いか、解析を始めたところである。
クラスターを形成している個々の遺伝子ではなく、染色体特異的にクラスターを形成している遺伝子が存在する領域を重視して、CSCTの名称及び定義を再検討した。名称には領域が存在する染色体の番号を入れることにした。当初クラスターを形成している遺伝子を10個(旧CSCT1~CSCT10)リストアップしていたのだが、2番染色体上に存在する旧CSCT1と旧CSCT2は領域が重なっていたのでひとつにまとめてCSCT2とした。また、4番染色体上に存在する旧CSCT3、旧CSCT4、旧CSCT5及び旧CSCT6は、配列は違うのだが領域としては重なっているのでCSCT4としてひとつにまとめた。12番染色体上の旧CSCT7はCSCT12と呼ぶことにした。旧CSCT8については、改めてBLAT Searchをやり直した結果、クラスターと呼ぶにはコピー数が少なかったのでリストから外すことにした。旧CSCT9は13番染色体上に存在するのでCSCT13と呼ぶことにした。旧CSCT10については、主に14番染色体上に存在するのだが、似た配列が他の染色体(9, 13, 16, 17, 18, 19, X)にも点在していたので、リストから外すことにした。結果的に、染色体特異的にクラスターを形成しているトラップジーン(CSCT)は、CSCT2, CSCT4, CSCT12 & CSCT13の4種類になった。これまで集中的に解析を進めてきたCSCT13とは別のクラスターを形成する領域として、2番染色体上に存在するCSCT2(約3.0 Mbp)領域の欠損も行うことにした。CSCT2にはRefSeq遺伝子が89個含まれているが、これも繰り返しのためにマルチコピージーンが多く、遺伝子の種類としてはもっと少ない。もしCSCT2領域全体を欠損させることでシビアな表現型が観察された場合は、レスキュー実験も検討する。CSCT13ノックアウトマウスに関しては、熊本マウスクリニック(KMC)の各種機器を用いた表現型解析を行う。
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http://egtc.jp