研究概要 |
近年Glioma幹細胞(GSC)の存在が示されこれを標的にした新たな治療の創出が期待されている。しかしGSCの分子情報は非常に限られているため, 治療ターゲットの開発は困難を極めている。本研究では我々が開発したトランスクリプトーム・プロテオーム融合解析技術を超高感度に最適化することによって, 悪性Glioma組織から樹立したGSCの分化誘導刺激で経時的に変動する特有の細胞内活性化分子ネットワークを詳細に解析し, 幹細胞維持と分化誘導スイッチングの分子メカニズムの一端を明らかにする。本年度は、グリオーマ患者組織より分離した微量なGSC3クローンを用いて分子発現差異解析法であるiTRAQ-8Plex法、2D-DIGE法、およびDNA arrayの融合法の開発を試み、得られたすべての情報を統合マイニングすることによって、異常に制御されたシグナル伝達経路を特異的に抽出する方法論(iPEACH法)を確立した。GO解析およびnetwork解析から、GSCは幹細胞マーカーCD133、nestin、Sox2の分化誘導時の発現減少、及びGFAP、Tuj1、CD44・vimentin、及び活性化EGFR-RAS-MAPKとPI3K-AKT-mTOR系路の発現を誘導し、神経幹細胞様の性質とグリオーマ細胞への分化能を有すること、さらに、分化誘導により自らfibronectinを始めとする細胞外マトリックスを分泌し、接着分子integrin aVを介して分化誘導するとともに多数の興味深い糖鎖関連分子群が誘導制御されていた。この誘導はintegrin aV阻害剤(RGD)/阻害抗体により阻害され、GSCは自ら分化に特異的な微小環境「分化ニッチ」を作り分化誘導することを示唆した。さらに、in vitro, in vivoにおいて、分化ニッチ停留時、GSCの抗がん剤の感受性が増加することを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
1. データ統合とData Base構築, 特異的シグナル分子群の選択とネットワークの抽出:全てのデータをiPEACHソフトウェアによって統合しData Base化する。発現変動候補分子群を分子ネットワーク解析ソフトKeyMonet (医薬分子設計研究所:文献上報告されている分子ネットワーク情報を網羅的に収集した生命情報統合プラットホーム)によりGSC分化に関与する分子群ネットワークを抽出同定する. 既にクローン化したGSC03A/Uについては予備的解析が完了している. 2. 同定分子群の細胞内機能解析と治療ターゲットとしての可能性の検討 : 抽出された分子群の検証:全てのクローンでの共通の発現変動を抽出された分子群の抗体カクテルと2D-Western Blot法にて確認, glioma 幹細胞マーカーとしての可能性の検討, および免疫組織学的な解析との比較, 情報のデータベース化を行う. glioma幹細胞の分化のスイッチングに重要と思われる候補分子を選択する. 各分子をノックダウンし, 抗がん剤による細胞増殖/毒性を評価・タイムラプス共焦点顕微鏡による形態変化の観察, また, 細胞内で候補分子の発現抑制あるいは亢進に伴って同時に変化する関連分子群の発現を解析する. さらに, 候補分子の中和抗体, ペプチド等の阻害剤を用いて, 分化誘導への影響をin vitroで検討する. 移植動物モデルにより同定分子の臨床応用への可能性の検討(動物移植実験システムの構築) in vitroにおいて有効であった阻害剤および抗がん剤を移植動物モデルへ投与し, 腫瘍への影響を検討する。そのために各種GSC移植に最適化した動物実験のシステム構築を行う.
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