血管内皮細胞では、血流によるずり応力を感知する種々の生体応答が知られている。本研究では、生物が普遍的にもつ物理的感覚受容に関する研究の一環として、消化管内でのずり応力に対する生体応答について検討した。まず、典型的な血流のずり応力感知の仕組みを利用して、細胞のカルシウム応答を指標にしたずり応力を感知できる実験系を構築した。その実験系を用いて数種類の消化管組織由来細胞がずり応力に対して応答するか否かを解析した。その結果、イオンチャネル型プリンヌクレオチド受容体であるP2X4遺伝子を過剰発現させたHEK293細胞(P2X4/HEK)では通常のHEK293細胞に比べてずり応力に伴い蛍光変化の上昇が確認された。また、その蛍光上昇はP2X4受容体アンタゴニストである5-BDBD存在下では消失したことから、P2X4受容体を介したずり応力刺激であった。次に、このP2X4/HEK細胞に対してずり応力刺激を段階的に上昇させていったところ、ずり速度の上昇に伴い有意な上昇が見られた一方、その上昇はずり応力3.42 dyne /cm2を最大に減少に転じた。カルシウムキレート剤であるEGTAの存在下では蛍光上昇が消失した。プライマリーカルチャーであるHPAEC細胞においても同様のずり応力刺激への応答が観察された。次に、数種類の消化管組織由来細胞のP2X4遺伝子発現量を調べた。その結果、ヒト結腸腺由来のHT-29、咽頭由来のDetroit562に対して、P2X4遺伝子の発現が認められた。ずり応力試験を行った結果、どちらの細胞もわずかながらの蛍光上昇にとどまったが、蛍光比率の増加はP2X4遺伝子発現量が比較的高かったHT-29細胞において有意差が観察された。HT-29細胞に対してP2X4受容体アンタゴニストである5-BDBDの存在下でずり応力刺激を与えると、蛍光の上昇は減少したことからP2X4受容体の発現とずり応力応答には相関があることを明らかにした。
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