研究課題
挑戦的萌芽研究
ICF症候群ではDNAメチル化異常があり、そのためにB細胞の抗体産生細胞への分化に重要な役割を果たす遺伝子の発現異常が起こり、B細胞が抗体産生細胞に分化成熟できず、低γグロブリン血症になっていると考えられる。そこで、この抗体産生細胞への分化に重要な役割を果たす遺伝子を同定する目的で以下の実験を行った。a)ICF症候群患者由来B細胞の全ゲノムメチル化アレイ解析:すでにDNAMT3B変異ないしZBZB24変異を確定している7家系のICF症候群タイプ1とタイプ2の患者及び保因者である家族、非保因者である家族、血縁関係の無い健常者より、文書による同意の下で採血を行い、末梢血B細胞のうちCD27陰性のナイーブB細胞とCD27陽性のメモリーB細胞をFACSによるsortingで分離した。回収した細胞からDNAとRNAを抽出し、DNAはバイサルフェイト処理し、その後全ゲノムメチル化解析を行った。なお、プロモーター領域のメチル化をより密に同定できるように解析している。カバー率は、現時点では最も高精度である。全メチル化解析の結果、以下の点が明らかになった。(1)正常者と患者の比較では、ICF症候群タイプ1とタイプ2の患者で劇的にメチル化差異を示す遺伝子が同定できた。(2)保因者は健常者に近いメチル化結果であった。(3)健常者のナイーブB細胞からメモリーB細胞への分化過程の遺伝群のメチル化変化が明確に認められた。(4)ZBTB24変異による患者と健常者との比較により、ZBTB24遺伝子にも、DNMT3Bと同様なメチル化活性があることが判明した。b) ICF症候群患者由来B細胞の全mRNA sequence解析:a)の実験で回収したB細胞から、同時にRNAを抽出し、これを全mRNA sequenceし、発現が低下ないし亢進している遺伝子のデータを得た。c) ICF症候群タイプ1と同様にタイプ2でもCD27陽性のメモリーB細胞が完全に欠損していることを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
7家系のICF症候群タイプ1およびタイプ2の患者および保因者を集めることができた。同意のもと末梢血を採取し、FACSによるsortingにより非常に純度の高いナイーブB細胞とメモリーB細胞を充分量得た。それをもとに、全ゲノムメチル化解析を行ったところ、予想を上回るほどの、非常に明確なメチル化の差を持つ遺伝子群が同定できた。また、ICF症候群タイプ1とタイプ2で共通してメチル化が異常である遺伝子群も同定できた。これは、DNMTB3とZBTB24のメチル化の機構の共通点の解明につながる成果である。この2つの遺伝子で共通した脱メチル化遺伝子領域を特定することは非常に興味深い新しい課題となる。さらに、健常者でナイーブB細胞とメモリーB細胞でメチル化の異なる遺伝子群を見出すことが出来た。この遺伝子群は、正常B細胞におけるナイーブB細胞からメモリーB細胞への分化に関わる遺伝子群である可能性があり、このような解析データは初めて得られた結果である。また、メチル化解析に加え、ナイーブB細胞とメモリーB細胞のRNAを抽出し、RNAシークエンスも全ての患者、保因者、健常者で行い、ICF症候群で特有のmRAN発現の変化が確認できている。以上の結果は、ヒト免疫系で、いまだ解明が遅れているB細胞の最終分化である抗体産生細胞への分化成熟機構の解明につながる大きな成果である。
1)B細胞の抗体産生細胞分化に関わる遺伝子の同定:ICF症候群患者由来B細胞の全ゲノムメチル化アレイ解析、ICF症候群患者由来B細胞の全mRNA sequence解析の実験で得られたメチル化異常のある領域、RNA発現の異常のある遺伝子の結果を合わせ、原因遺伝子を絞り込む。メチル化異常があり、かつRNA sequenceで、ICF症候群患者で発現が下がり、ICF症候群保因者で半減し、健常者で正常な遺伝子、およびCD40+IL-10刺激で正常では誘導されるがICF症候群では誘導されない遺伝子を候補とする。候補となった遺伝子を、ヒトナイーブB細胞に導入し、抗体産生誘導されるか検討する。また候補遺伝子のsiRNAを作製し、健常人由来B細胞の刺激による抗体産生誘導が抑制されるかについても検討する。抗体産生を誘導するCD40+IL-10刺激で誘導される遺伝子、CD27陽性B細胞に特異的に発現される遺伝子のデーターベースも参考とする。以上により、B細胞の抗体産生細胞への分化に関わる遺伝子を同定する。2)分類不能型免疫不全症(CVID)新規原因遺伝子の同定:同定された遺伝子について、B細胞の最終分化が障害されている分類不能型免疫不全症(CVID)のうち原因遺伝子が同定されていない多数の症例で、遺伝子変異がないか確認する。症例は、申請者が構築した日本全国の免疫不全症の中央診断登録システムであるPIDJ (Primary Immunodeficiency Database in Japan)に保存されている多数の検体を用いる。その中でもTREC(-), KREC(-)のB細胞最終分化障害が原因と考えられる患者群を用いる。ICOS, TACI, BAFFRなど最終分化に関わる遺伝子が原因と判明している患者は除く。DNA変異の解析は、アンプリコンPCRと次世代シークエンサーを用いた迅速に多数の検体を解析できるシステムを用いる。これにより、CVIDの新規原因遺伝子を同定することをめざす。
1年目の目標であったICF症候群のB細胞におけるメチル化解析とRNAシークエンスが実施できた。そのため次年度の目標である、両者の結果を合わせてB細胞が抗体産生細胞へ分化成熟に重要な役割をしている遺伝子同定のための実験に用いるため、次年度に使用することとした。また、新たに見出したICF症候群患者の検体を採取するための旅費、B細胞の分離実験にも使用したが、患者都合で2年目でないと検体を採取する事ができない症例がいた。すなわち本来1年目に行う予定の実験の費用であるため、2年目に持ち越して使用した。メチル化異常の遺伝子群の発現を、RNA シークエンスの結果と合わせ、ICF症候群で特異的に発現変化が起きている遺伝子を同定する。確認のため、候補遺伝子群のreal time PCRによるRNA発現の定量も行う。ICF症候群タイプ1とタイプ2患者、保因者、そして健常者のナイーブB細胞とメモリーB細胞でそれぞれ解析しているため、全ての組み合わせで比較し、原因遺伝子を絞り込む。
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