研究課題/領域番号 |
25670578
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研究種目 |
挑戦的萌芽研究
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
井上 彬 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (90645053)
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研究分担者 |
山本 浩文 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30322184)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 難治性消化器癌 / 新規癌治療法 / ドラッグデリバリーシステム / グルコース内包スーパーアパタイト超微細ナノ粒子 |
研究概要 |
新たなドラッグデリバリーシステムであるスーパーアパタイト(sApa)超微細ナノ粒子法を用いて、難治性消化器癌に対する新規癌治療法を開発する事を研究目的とした。これまでの、in vitro、in vivo における抗癌剤や核酸の高い導入効率の結果に基づいて、今回、高濃度グルコース(Glu)を内包した超微細ナノ粒子(以下; sApa-Glu)を作成し、全く新しい癌治療法を試案した。 平成25年度は、以下に示した3つの具体的な研究成果を挙げる事が出来た。 ① 物性の検討では、走査型プローブ顕微鏡を用いた測定により、sApa-Gluが10~30nmである事を確認した。また、sApa-Gluがヒトの血清中(pH7.4、37℃)で安定であり、酸性環境下で内包薬物を速やかに放出する特徴を有し、その結合率は約0.2%であった。 ② in vitroの検討では、ヒト大腸癌細胞株HT29を用いて、sApa-Gluが、sApa単独及び無処理群に比して、有意に細胞増殖抑制効果を認めた。 ③ in vivoの検討では、ヒト大腸癌細胞株HCT116を用いて、皮下腫瘍モデルマウスを作製し、sApa-Gluを尾静脈より2週間、隔日投与で計6回、全身投与した。その結果、生理食塩水投与群に比べ、sApa-Glu投与群で、有意に腫瘍縮小効果が認め、病理組織学的検討では、腫瘍内部を中心に約75%の壊死を認めた。また、Glu単独投与群に比べ、sCA-Glu投与群で、腫瘍内のGlu濃度が有意に高く、sApaによる高い導入効率が示された。薬物毒性に関しては、カニクイザルを用いた非ヒト霊長類毒性試験を行い、状態観察や血液生化学検査も含めて、明らかな副作用がない事を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究実施計画の中で、我々は以下の3つの検討課題を提示した。すなわち、①高濃度グルコース内包スーパーアパタイト超微細粒子(以下;sApa-Glu)の物性の検討、②sApa-Gluのin vitro における検討、③sApa-Gluのin vivo における検討、である。これまでの実験データに基づいて、我々はこれらの検討課題に対する解決策や新たな知見を見出しつつあり、概ね順調に進展していると考えている。 ①では、従来までのリポソーム製剤、ミセル製剤やアテロコラーゲンを用いたドラッグデリバリーシステムの問題点を克服した。つまり、内包物の正常臓器への蓄積の問題と、ステルス効果を得るためのPEG処理により100nm程度のサイズとなり、腫瘍組織への浸透性が不十分となる事が問題となる。これらを克服するため、我々は粒子作成時にアルブミン付加後に超音波処理を行うことで、粒子の凝集を回避し、10~30nmサイズの超微細粒子を作成し、正常臓器への蓄積を認めず、効率的に腫瘍組織に送達するシステムを開発した。また、この超微細粒子はヒトの血清中(pH7.4、37℃)で安定であり、酸性環境下で内包薬物を速やかに放出する特徴を有する。 ②では、ヒト大腸癌細胞株HT29を用いて、sApa-Gluが有意に細胞増殖抑制効果を認め、優れた抗腫瘍効果がある事を明らかにした。 ③では、ヒト大腸癌細胞株HCT116を用いて、皮下腫瘍モデルマウスを作製し、in vivo実験を行ったが、sApa-Glu投与群では有意に腫瘍縮小効果を認めた。また、従来のドラッグデリバリーシステムで問題となるような他臓器への蓄積や毒性は認められず、効率的で副作用の少ない安全な抗癌剤としての可能性を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
今後のヒトでの臨床応用へ向けて、以下に研究課題と推進方策を提示する。 ① スーパーアパタイト超微細粒子(以下;sApa-Glu)の体内動態の評価 イ) 薬物動態と薬物力学の評価 sApa粒子自体の生体内代謝、排泄の詳細はいまだ不明である。マウスに種々の濃度のsApaを経静脈投与し、sApaの体内動態を検討する。これにはCa同位体(Ca44)を用いることとし、原法では塩化カルシウムを材料としていたが、Ca同位体は炭酸カルシウムの状態でしか作られておらず、化学的に炭酸カルシウムを用いて生合成する系を確立する。その上で従来と同量のsApaを静脈内に投与し、経時的に採血して、薬物動態と薬物力学を評価する。PK パラメーターでは、AUC、最大Pt 濃度、Cmax 到達時間、全身クリアランス、消失半減期、定常分布容積を評価する。 ロ)正常組織および癌組織への分布の評価 同様にCa44同位体で標識したsApaをマウスに静注し、経時的に腫瘍、各臓器を採取後、組織中のCa同位体の分布をICP-MSにより測定する。病理学的な障害についても検討する。 ② sAPa-Gluの 抗腫瘍活性の評価とメカニズムの解明 皮下腫瘍マウスモデルを作成し、経時的にPET-MRI 撮影によって腫瘍径を計測する。各臓器および癌組織を採取し、病理組織学的に抗腫瘍効果および長期間投与による正常組織への毒性を評価する。また、抗腫瘍効果のメカニズムとしては、細胞内高血糖状態が細胞活動に及ぼす影響をタイムラップスを用いた形態観察とマイクロアレイによる分子学的検討により推定し、解析を進める。
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