研究課題
挑戦的萌芽研究
1)受容体トラフィッキング異常による麻酔薬効果への影響GABA-A受容体の膜内でのトラフィッキング異常、特にシナプス直下からシナプス外への移動が阻害されているPhospholipase C-related but catalytically inactive protein type-1 (PRIP-1)を欠損するマウスを用い、GABA-A受容体のトラフィッキング異常が麻酔効果への影響を解析した。使用した静脈麻酔薬としてプロポフォール、バルビツール、ケタミンを使用し、麻酔効果を正向反射を指標に効果発現、持続時間を測定した。 その結果、プロポフォールの麻酔効果の減弱、麻酔効果発現の遅延および持続時間の短縮が見られた。またケタミンも持続時間の短縮が見られた。一方でバルビツールの効果は、ほぼ野生型動物と同様の効果を得られた。プロポフォールの効果発現にGABA-A受容体のbeta3サブユニットが主に関わっていることがわかっている。PRIP-1欠損マウスでは、このサブユニットのシナプス部位からシナプス外への移動が阻害されているため、プロポフォールの麻酔効果の減弱がもたらされたと考えられた。バルビツールの場合は麻酔効果の標的サブユニットがbeta3以外にもあるため効果減弱が見られなかったと考えられた。2)受容体トラフィッキング可視化の確立細胞レベルでのGABA-A受容体の細胞内および膜上でのトラフィッキング機構解明のため、GABA-A受容体のbeta3サブユニット配列に標識蛋白を導入したプラスミドを作成した。標識可サブユニットをHEK293細胞に強制発現させ、GABA投与に対して、Clイオンによる電流応答をパッチクランプ法を用いて測定した。標的サブユニットを導入したGABA-A受容体が電気生理学的に正常に機能することを確認した。
2: おおむね順調に進展している
GABA-A受容体リン酸化制御および細胞内と膜内トラフィッキング調節に関わるPRIP-1蛋白を欠損したマウスが麻酔薬効果に異常を来すことが確認でき、仮説として提示した「リン酸化制御による麻酔効果調節」の機構が実際に存在する証拠を見いだした。この内容はノックアウト動物を用いた個体レベルでの現象であるが、GABA-A受容体のどのサブユニットが麻酔効果調節に関わるかを、薬理学的に示唆する結果を得た。また麻酔効果調節のためのメカニズムを知るため、解析すべきサブユニット決定に役立った。
1)脳内の受容体リン酸化および脱リン酸化を制御する蛋白群、PKA、PKC、PI3K、PP2A、PP1に対する阻害剤を用い、PRIP-1欠損マウスにおけるプロポフォールの麻酔効果減弱を野生型動物のレベルまで回復できるかどうかを正向反射を指標に探索する。投与経路は、腹腔内投与が可能な薬物から開始し、脳内移行が悪い物質に関しては、脳室内投与方法を確立する。2)減弱効果の回復が見られたリン酸および脱リン酸化経路と、GABA-A受容体トラフィッキング機構との関連を探索する。初年度に作成した、標識蛋白を結合したGABA-A受容体サブユニットを発現させた細胞系を用い、細胞内から膜への移行を可視化する。移行率、移行時間、移行量をコンフォーカル顕微鏡を用いて解析する。 シナプス直下部分とシナプス外に存在するGABA-A受容体サブユニットの発現量、種類を植Western blotを用いて解析する。 細胞の膜成分を超遠心と分画ごとのサンプリングによってシナプス部位とシナプス外の膜成分を分離精製を行う。この部位ごとのGABA-A受容体発現量解析が、確立下のち、1)から得られたリン酸化、脱リン酸化経路にかかわる阻害剤等を用いて、膜内移行に関わる受容体リン酸化過程を明らかとする。これらの実験系より受容体リン酸化制御によるGABA-A受容体機能調節を明らかとし、麻酔薬効果発現調節にかかわる部位を明らかとする。
平成25年度は、ノックアウト動物の数が少なく、動物管理等のための人件費への支出が必要なかったこと、物品に関しては、リン酸化経路の確定まで至らなかったため、購入すべき関連阻害剤、抗体等の試薬、器具類の購入ができなかったため次年度使用額が生じた。1)リン酸化経路の探索、解析にかかわる試薬・器具類への物品費 2)ノックアウト動物の飼育・管理のための人件費・謝金 3)論文投稿、英文校正などのその他の経費を計画している。
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