研究実績の概要 |
腱損傷に対する治療体系は手術と後療法からなる。現在、後療法としては固定法、早期運動療法などが行われているが、この間に、屈筋腱損傷では十分に強度が回復するまでに時間がかかるため、関節可動域制限や周囲組織との癒着、再断裂等の合併症を生じ、機能的予後が悪くなるケースが少なくない。本研究は腱損傷の再生迅速化を図るため、脂肪組織から得られ脂肪由来幹細胞(adipose-derived stem cell, 以下 ASC)が多く含まれる間質血管細胞群(stromala vascular fraction, 以下 SVF)を利用した移植療法によって、損傷腱の修復を迅速化させる可能性を追求することを目的とした。 まず、昨年度までに、マウスアキレス腱を切断後、10-0 nylonを用いてKessler変法で腱縫合を行い、後療法として術後足関節底屈位固定をする新規マウスアキレス腱縫合モデルを作製し、術後の評価方法として、足関節可動域評価、およびアキレス腱使用再開までに要する期間を計測する実験系を確立した。 続いて、本年度に、マウス鼠径部皮下脂肪組織から SVF を採取し、3継代を行って移植用細胞を調製し、細胞を調製したものと同系統の移植実験用マウスを準備し実験を進めた。マトリゲルを担体としてSVFを培養用培地と混合して移植するSVF移植群と、対照群としてマトリゲルにSVFの代わりに培養用培地のみを混合して移植する群を設け、実験を行った。術後の評価として、上述の足関節可動域評価、アキレス腱使用再開までの期間のほか、治癒過程でみられた異所性軟骨形成領域を組織学的に準定量評価した。この結果、移植群では、足関節可動域制限の改善、アキレス腱再使用を開始するまでの期間が短縮、異所性軟骨形成の抑制傾向がみられ、SVF移植が腱再生過程における良好な治癒に寄与することこが明らかとなった。
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