研究実績の概要 |
今年度は、脳卒中片麻痺患者での上肢到達運動課題実験を開始した。予備的検討では、実験中に痙性麻痺が一過性に増加するなどの問題が生じたため、被験者取り込み基準を見直して軽度運動障害患者を中心とした実験設定に変更した。また、肩関節挙上角を10度に保持することで安定的に実験の遂行が可能であったことから、ロボットの生体軸に対するアライメント基準も改訂した。 実験条件の改訂後には、臨床研究を定期的に進め、現在までに10例の症例データを集積した。今年度の研究実績として挙げられるのは、到達運動方向に対して慣性軸まわりの施行間分散(precision)が体系だって低いことを見出した点である。現在までの概算値では、健常者の1.5倍程度に増加していた。本研究では、ロボットによる微弱力場を与えて、被験者の意識下で脳内の運動制御内部モデルを更新していく計画であるが、今回得られたPrecision値を基準として、その半分程度の変動を与える力場強度であれば、被験者に気づかれない課題を設定可能であることが示唆された。来年度は、この策定基準に基づいた力場環境による実験を遂行する計画である。 また、脳機能イメージング装置内で上肢到達運動を可能とする非磁性装置の設計を完了し、試作をおこなった。装置の可動軸に対して2つのポテンショメータを設置することで、被験者の二次元エンドポイント座標を実時間で推定することを可能とした。今年度終盤には、この装置を用いて「無意識な運動学習」が進捗する過程をfMRI撮像する実験を開始した。昨年度に掲載された実験課題(Habagishi et al., Frontiers in Human Neuroscience, 8:92, 2014)に準拠してデータ取得を進める予定である。
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