研究実績の概要 |
申請者は極わずな細胞数しか分離できない造血幹細胞を対象とした細胞内のタンパク質の局在やリン酸化を定量的に解析する技術を開発することにより、骨髄中に存在する造血幹細胞の休眠状態を分子レベルで定義づけた(Yamazaki et al., EMBO J, 2006)。次に申請者はこの技術を利用して、骨髄中おいて造血幹細胞を休眠状態に誘導するタンパク質がTGF-betaであることを明らかにした(Yamazaki et al., Blood, 2009)。さらに、潜在型TGF-betaを活性化させる微小環境こそが造血幹細胞の存在する骨髄微小環境であるという仮説を立て、骨髄組織を定量的に解析する新しい手法を開発することにより、骨髄シュワン細胞が潜在型TGF-betaを活性化させることによって造血幹細胞の細胞周期や休眠状態を制御しているという興味深い事実を明らかにした(Yamazaki et al., Cell, 2011)。また、骨髄を構成している細胞や環境を理解することによ、iPS細胞からテラトーマを利用した機能的な造血幹細胞の誘導等の技術開発にも成功している(Yamazaki et al., submitted)。マウスにおいてはドナーとレシピエントを区別する方法としてLy5.1/5.2システムにより移植後の造血幹細胞の動態を解析できるが、ヒトに関しては困難であった。しかし、ヒトのHLAアリル特異的モノクローナル抗体を作製する技術を開発することにより、ヒト造血幹細胞移植後のドナー細胞の生着率や造血幹細胞の動態を解析することが可能になった(Yamazaki et al., JIM, 2009)。この様に申請者はマウスの実験だけではなくヒト造血幹細胞の研究も視野に研究を進めた。申請者がこれまでに蓄積してきた成果と技術をさらに洗練させ、造血幹細胞が存在する骨髄微小環境の詳細を明らかにし、人工骨髄微小環境の作製を目指し、in vitroにおける造血幹細胞の培養系を構築する基盤を築くことができた。複数の論文を国際的に発信した。
|