本年度における研究実績は次の2点であった。第一に、昨年度までの成果について、法と心理学会第16回大会において研究報告を行った。本報告では、市民が証言の信頼性等を判断する際、その根拠として参照される各情報の重みづけ方略が証人の属性によって異なるか検討を行った。参加者は、模擬裁判シナリオ(殺人事件)を読んだ後で証言の信頼性等を判断した。その際、証人の属性(被害者遺族または被害者の隣人)など証言の信頼性と関連する可能性のある情報を独立変数として操作した(3 要因被験者間計画)。得られた評定値に対してそれぞれ 3 要因被験者間分散分析を行ったところ、一部の要因で主効果が有意傾向であったのみであり、いずれの分析においても有意な交互作用は見られなかった。つまり、証人の属性が異なることによって、特定の情報の重み付けに変化が生じるといった傾向は見られなかった。 第二に、模擬裁判における評議の発話データに着目して、昨年度および一昨年度の研究活動で得られた知見の精緻化を行った。具体的には、(1)一昨年度の研究活動で得られた評議の発話データ(上記研究に準じた手続き。ただし、被告人の証言を研究対象としている)に対してあらためて分析を試みた。被告人の属性の相違が評議における情報の重み付けに及ぼす影響について検討を行ったところ、明確な差異は見られなかった(上記発表内で合わせて報告)。次に、(2)発話者の属性が異なることで評議における情報の重み付けのあり方に変化が見られるかについてさらに検討するため、昨年度までに行った研究から一部の条件をピックアップし、評議の手続きを変更の上、上記研究に準じた実験を行った。具体的には、評議を半構造化し、実験者が設定した特定のトピックで一定時間話し合いが行われる枠組みを設けた中で発話データを得た。
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