本研究課題では,プレッシャー下における知覚-運動系,注意,情動性身体の関係性を質問紙調査によって明らかにすることを目的とした.3年目となる今年度は,1年目に実施した空間知覚と運動制御の関係性を検討した実験結果,ならびに2年目に実施した空間知覚と運動方略の関係性を検討した実験結果の生態学的妥当性を確認するために,質問紙調査を計画・実施した. 1,2年目の実験の結果,プレッシャー下においては空間知覚が自己のパフォーマンス発揮に対して不利な方向に偏向するほど運動制御や運動方略も変化する可能性が示された.そこで本研究課題では,プレッシャー下における空間知覚,運動制御,運動方略,注意,情動性身体の変化間の関係性を調査するための質問紙(30項目)を作成し,大学運動部に所属する175名を対象に質問紙調査を行った.探索的因子分析の結果,次の7因子(23項目)が抽出された:1)空間知覚歪曲,2)失敗不安,3)意識的処理,4)注意散漫,5)情動性身体状態,6)過剰覚醒亢進,7)運動制御混乱.なお,運動方略に関する因子は抽出されなかった.次に,1~4を心理的因子,5,6を生理的因子,7を行動的因子とし,生理的因子から心理的因子を介して行動的因子が影響を受ける分析モデルを仮定した.共分散構造分析の結果,モデルの適合度が確認され,潜在変数間のすべてのパス係数が有意な値を示した.そして,①情動性身体状態から空間知覚歪曲および失敗不安を介して運動制御混乱に至る関係性,②過剰覚醒亢進が注意散漫に影響し,注意散漫から意識的処理を介して運動制御混乱に至る関係性が確認された.これらの結果から,プレッシャー下における運動パフォーマンス崩壊の背景には環境に対する知覚と運動制御の混乱や注意の変化が関与するが,それらの変化が身体の情動反応やその過剰亢進の影響を強く受ける可能性が確認された.
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