平成28年度は、東大寺十二神将のうち子神立像(以下、子神像)と丑神立像(以下、丑神像)の3D計測調査から得られたデータと、平成27年度より継続して実施した丑神立像の縮尺模刻実験で得られた知見とともに、両像の関係を検証した。 模刻実験では、約70%に縮小した子神像の3Dデータから丑神縮尺模刻像(以下、縮模像)の実験図面を作成し、これを縮模像制作に用いる頭体幹部材の正面・背面・両側面に転写したほか、子神像の頭体幹部材の接合面から抽出した断面線も同じく約70%に縮め、縮模像の頭体幹部材の接合面の内側に転写し、これをガイドに模刻制作を行った。 その結果、制作前に懸念された縮尺模刻によるプロポーションの狂いが少なかったほか、内刳りや足回りの彫刻の作業性も大変良いことが確認された。 そこで子神像の頭体幹部における3Dデータから作成した正面投影図を左右反転させ、丑神像のそれとをともに原寸で比較すると、概形の近似が確認された。さらに頭体幹部材の接合面から抽出された両像の断面線は、体部の厚みもさることながら、兜や頸部のくぼみ、甲締具・腰帯などの位置の近似のほか、股下の裳の彫り込みの深さに至っては、目視で形を写しとるだけでは困難なほどの詳細な一致が認められた。 このことから、子神像・丑神像の制作工程には、概形を決定するシルエット状の「図面」のほか、「断面線」を含む「図面」の存在が濃厚となった。惜しむらくは残る10躯の3Dデータによる形状比較ができなかったことだが、これらの像も「図面」活用による彫刻作業を進めたことが想定され、今後の研究に委ねたい。
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