1 最終年度に実施した研究 本年度は、3つの事項について研究を実施した。まず、障害者権利条約が締約国に求める障害者の法的能力の平等について整理し、この点に関するイギリス国内の議論を調査した。近時、わが国も障害者権利条約を批准しており、精神障害により判断能力が不十分な要保護者の権利を保障するための法的枠組みを作るためには、この条約に抵触しないようなシステムを考える必要がある。そのためには、2009年に同条約を批准し、わが国とは異なる要保護者の意思決定支援制度を有しているイギリスでの議論を探求することは示唆的であった。 次に、わが国において要保護者の生活支援とかかわりを持つ諸機関(地域包括支援センター、社会福祉協議会、医療・介護従事者、後見人等および家族)の職務権限および責任について調査した。この研究を通じて、現行制度の下で、要保護者の身上監護のための意思決定支援を行うためには、各機関がどのような職務を執行し、どのような点において連携を図る必要があるのかを明らかにした。 最後に、要保護者については身上監護事項のほかに、その身分に関する決定についても問題が生じている点に着目し、要保護者の養子縁組の有効性をめぐる裁判例をもとに、現行法の下で、養子縁組を行うために必要と考えられている意思能力の内容および基準について研究を行った。この研究を足掛かりに今後はさらに他の身分行為についても検討し、最終的には本研究課題が対象とした身上監護事項と併せて、要保護者の意思決定支援のあり方について考えていきたい。 2 研究期間全体を通じて実施した研究 身上監護事項の中でも、特に要保護者の自律と保護の利益調整が困難である事項の一つに、居所の決定や面会交流の制限があげられる。本研究期間を通じて、これらの事項の決定における要保護者の人格的利益の保障に必要な法的枠組を検討し、博士論文にまとめた。
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