平成28年度の実績を二つ述べる。 一つ目はミルナー不変量やOrr不変量についてである。その不変量はべき零群を用いた絡み目の研究手法である。60年前に定義され多くの研究がある。しかし両不変量とも有力な計算法がほぼ皆無であった為、計算例も多くなかった。その原因ないし難点として、べき零群にある非可換性と、定量的でない定義があった。 そこで本年度、筆者はミルナー不変量の図式的な計算法を与えた(九州大学の小谷久寿氏との共同研究である)。その計算法は多項式的で計算機との相性がよいため、計算例を予想以上に多く与えることができた。また"ミルナー絡み目"という絡み目の系統的な族に対しても計算できたので、我々の計算法は実用的と思われる。この研究成果により、カンドルの有用性に一つの説得力を与えたと考えている。実際、この仕事では(カンドルを用いた不変量である)非アーベル版のカンドルコサイクル不変量がアイディアにした。また"緯線の群表示"に対して、カンドルの応用への指針を与えた。 二つ目に、私の研究主題であるカンドルに関して、著書の依頼を受けたため、今年度はその執筆に専念した。現在ほぼ書き上げ、来年度にでもSpringerから出版予定である。その著書の趣旨はカンドルの概論と結び目理論への応用であり、また筆者の近年の研究成果の概説でもある。これまでカンドルの本が少なかった為、この出版により専門外の研究者にもカンドルが学びやすくなると期待である。また本著では、カンドルの有用性や研究意義について私の見解を幾らか述べ、将来の可能性や問題などを提示した。 近年の筆者の研究成果により、日本数学会から2016年度の建部賢弘賞特別賞を受賞し、カンドルの研究成果について一定の評価を受けた。また最後に、昨年度に陳述した「今後の研究方策」について述べると、進捗が芳しくなかった。
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