本研究では、神経変性疾患と生活習慣病との間に共通する種々の病態メカニズムや治療ターゲットが存在するのではないかという観点から、抗糖尿病因子として知られるアディポネクチン(APN)に着目し研究を行ってきた。α-シヌクレイン(αS)を恒常的に発現させた神経芽細胞や神経特異的にαSを発現したマウスなどのシヌクレイノパチー病態モデルを用いてAPNの効果を検討した。これまでの研究期間を通して、i) 培養細胞モデルにおいて、APNの添加によりαSの凝集に対する抑制効果がみられた。ii) マウスモデルに対しては、運動機能異常のみられない若齢マウスからリコンビナントAPN (C末断片) の経鼻粘膜投与を長期間おこなった結果、神経軸索末端のαSの蓄積が対象と比較し抑制され、行動試験より対照群のαS発現マウスと比較し運動機能異常がAPNの投与により緩和されていた。 最終年度は浸透圧ポンプを用いたAPNの側脳室投与を予定していたが、APNの経鼻粘膜投与により病態の改善が認められたため、神経細胞におけるAPNシグナルを重点に研究をおこなった。αSを恒常的に発現させた神経芽細胞では対照のベクターのみを発現させた細胞と比較しInslinシグナルの低下が認められたがAPNの前処理によりInsulinに対する反応性が亢進しが認められた。さらに、InsulinとAPNの共添加によりαSの凝集抑制効果がAPN単独添加と比較し亢進することがわかった。APN受容体のアダプタータンパクとして知られているAPPL1をはじめInsurin受容体などの発現がαS発現細胞において、対照のベクターのみを発現した神経芽細胞と比較し増加していた。また、APPL1の発現をsiRNAを用いてノックダウンさせるとリン酸化Aktなどのインスリンシグナルは低下し生存細胞が低下したことからAPNやInsulinのシグナルがシヌクレイノパチー病態モデルにおいて重要な役割を果たしている可能が示された。
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