研究課題
若手研究(B)
TGF-betaファミリーの一つであるBone morphogenetic proteins (BMPs)は癌の転移に重要であるが、膵癌における機能は未だ不明な部分が多い。膵癌では発癌の過程でTGF-betaシグナルに重要なSmad4の遺伝子異常が約半数に認められることから、膵癌におけるBMPシグナルの解明は膵発癌・進展・転移の分子機構を解明するうえで重要と考えられる。我々は、膵臓上皮特異的な変異型Kras発現+TGF-betaII型受容体ノックアウトにより、膵癌の臨床像・組織像をよく近似するマウス膵発癌モデルを既に樹立しており、本研究ではこのモデル用いて、膵癌の発癌進展におけるBMPsの役割及び転移機序の一端を明らかにし、さらにBMPsを標的とした治療可能性について検討した。当科で樹立しているマウス膵癌細胞株とマウスPanIN細胞株でBMP関連分子の発現状態を確認するため、定量的RT-PCRで検討すると、有意差は認めないものの膵癌細胞株でリガンドのBMP4,BMP7の発現が亢進しているものの、阻害物質のNogginの発現も亢進している傾向にあり、まずBMPシグナルが癌に促進的に働くのか、抑制的に働くのか検討した。マウスPanIN細胞に対してBMP4, BMP7, Nogginを投与すると増殖能、浸潤能では差を認めなかったが、BMPを投与すると接着能を亢進させ、Noggin投与で抑制されることがわかった。次にBMPR2安定ノックダウン株を作成し、同様の実験を行うと、BMPR2ノックダウンにより増殖能、浸潤能に変化はなかったが、接着能が低下していることが分かった。BMPによる接着能への影響を調べるために、特に接着能を亢進させたBMP7投与群とコントロール群で定量的RT-PCRアレイを用いて比較し、見出した分子が、BMP7を投与時にBMPR2ノックダウン株では上昇が抑制された。今後はさらにその分子の機能を解析する予定である。
2: おおむね順調に進展している
マウスPanIN細胞を用いたvitroの実験で、BMPがPanINに促進的に働き、接着能を亢進させることを見出し、それに重要と考えられる分子を特定できた。In vitroでBMPの解析を行う条件検討に時間を要したが確立できた。その条件を今後は膵癌細胞や線維芽細胞にも応用できるため、さらなる解析が可能となる。BMPR2安定ノックダウン株をPanIN細胞で樹立できた。同じレンチウィルスを用いて癌細胞、線維芽細胞でも同様にBMPR2ノックダウン株を樹立できるため、今後は腫瘍・間質相互作用への機能解析も可能となる。またIn vivoでの評価が不十分なので、今後はBMPの機能を評価できるvivoの系を確立できるように努力する必要がある。
BMPによる接着能亢進を担う分子の強制発現株や安定ノックダウン株を作成することでさらなる機能解析行うとともに、BMPシグナルが癌細胞・線維芽細胞でどのような機能を果たすかをPanIN細胞で確立した系を用いて評価する。またin vivoで細胞の接着に注目して肝転移・肺転移のモデルや、同所移植を用いた転移・増殖のモデルを確立し、BMPR2安定ノックダウンPanIN細胞株や癌細胞株で転移能を比較する。また線維芽細胞におけるBMPの役割を検討するため癌細胞・PanIN細胞との共培養や、混合皮下移植モデルなどを用いて、腫瘍間質相互作用におけるBMPシグナルの役割を解析する。
すべて 2013
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件)
Cancer Research
巻: 73 ページ: 2221-2234
10.1158/0008-5472