定点として設定した琵琶湖および関連水域より、約10種の共生藻保有繊毛虫を採集、形態およびDNA解析をおこなった。当初の方法論では、採集した繊毛虫を単離して数日間培養し、細胞に含まれる餌として取り込まれた藻類の消化を促す予定であった。しかし、採集後あるいは単離後の維持が困難な繊毛虫種が続出した。そこで採集直後に洗浄しDNA抽出、共生種のrDNAをターゲットとしたPCRに切り替えている。ダイレクトシークエンスであるにも関わらず、ほとんどのケースではきれいなシングルピークが得られている。これは、各々の繊毛虫種が、天然下においても共生藻を細胞内で高度にクローン化させていることを示すものと考えている。また、いくつかの繊毛虫種が特定の共生藻種をシェアすることもわかってきた。同一共生藻種のシェアリングに関してはすでに報告されていたが、周囲にいる自由生活型藻類を選択的に取り込んだためと考えられていた。しかし、本研究では各共生藻の多置換領域の比較から、種としては同一でありながら、それぞれの繊毛虫が持つ各共生藻が識別できており、同一の共生藻を2年以上の長期間にわたって維持していることが判明した。一般には繊毛虫における藻類との共生は一時的なものと考えられてきたため、この事実は長期的なサンプリングゆえに判明した大きな発見といえる。 定点外のサンプルを含めると、上述のようにシェアリングされる藻類種が他にも複数種あることが判明した。さらに、ある藻類種は、繊毛虫、太陽虫およびアメーボゾアと、スーパーグループをまたぐ宿主群でシェアされることもわかってきた。このようなデータから、いくつかの藻類種では、プロトゾア細胞内で長期的に維持されることを可能にする生理的迎合を含めた遺伝的変化が起きているものと考えられ、ゲノム解析によるこれらの遺伝的比較と進化機構の解明を次の研究目標に掲げるに至っている。
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