イヌのリンパ腫の発生機序として癌遺伝子や癌抑制遺伝子の異常、遺伝的素因などが示唆されているがいまだ不明な点が多い。ヒトのリンパ腫の中には、Epstein-Barr virus (EBV) などのウイルスが発がん因子の一つとして明らかにされているが、イヌにおいてはEBVを含めたウイルスの関与は明らかとされていない。本研究の目的は、イヌのリンパ腫における発がん因子としてのウイルスの関与を検討することである。本年度は、前年度に引き続きイヌのリンパ腫症例から採取した腫瘍細胞の培養上清を検体として、Rapid determination system for viral nucleic acid sequences (RDV) 法を用いて感染ウイルスの網羅的検出を試みた。しかしながら、研究期間全体を通じてウイルス由来遺伝子の検出には至らなかった。また、イヌのリンパ腫におけるEBVの感染を検討した。前年度までにリンパ腫自然発症症例における抗EBV抗体の保有状況をELISA法を用いて検討した結果、1検体が陽性と考えられた。また、本年度はイヌのリンパ腫細胞におけるEBVの感染をPCR法にて検討したが、いずれも感染は認められなかった。これらの結果から、本研究ではイヌのリンパ腫発生に関与するウイルス因子は同定されなかったが、EBVの感染がその病態に関与する可能性も考えられた。以上より、少なくともイヌのリンパ腫においてはウイルス因子の関与は一般的ではないと考えられた。
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