研究課題/領域番号 |
25860075
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
藤原 博典 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 助教 (10396442)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | タウ蛋白リン酸化抑制作用 / GSK-3β阻害作用 / 嗅球摘出(OBX)マウス / 老化促進マウス / 黄連解毒湯 |
研究概要 |
GSK-3β酵素活性阻害作用が見出された黄ごん由来フラボノイド類(wogonin,baicalinおよびbaicalein)を用いて,マウス大脳皮質初代培養細胞におけるGSK-3β阻害作用について検討したところ,baicaleinを処理した細胞ではGSK-3β活性が有意に低下していることが確認され,他のフラボノイドにおいても阻害傾向が認められた.また,アミロイド蛋白細胞毒性によるタウ蛋白リン酸化に対するこれらのフラボノイド類の影響を検討したところ,アミロイド蛋白処理により主要なタウ蛋白リン酸化部位であるセリン396位(GSK-3βによってリン酸化される部位;Ser396)やスレオニン205位(GSK-3β以外の酵素によってリン酸化される部位;Thr205)のリン酸化が引き起こされ,100 μM wogoninおよびbaicalein前処置によりSer396およびThr205のリン酸化の抑制作用が認められた.以上の結果からマウス大脳皮質初代培養細胞において,i) 黄ごん由来フラボノイド類はGSK-3β阻害作用を有する,ii) wogoninはGSK-3βによるタウ蛋白のリン酸化を阻害する,iii) baicaleinはGSK-3β阻害作用以外の作用も有することが示唆された. 一方,アルツハイマー病のモデル動物である嗅球摘出(OBX)マウスの海馬GSK-3β活性およびタウ蛋白リン酸化について検討した.OBX群は嗅球を摘出せず偽手術を施したマウス群にくらべて認知機能低下が認められた.また,これらのマウスでは海馬GSK-3βが活性化する傾向が確認されたが,Ser396およびThr205の顕著なリン酸化は認められなかった.このことから,本モデルマウスをタウ蛋白リン酸化モデルとして用いるには,さらなる条件検討が必要である.現在はOBXの条件を再検討するとともに,黄ごん含有漢方である黄連解毒湯の効果を検討している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的として,in vitroにおけるi) 漢方および生薬の中からタウ蛋白リン酸化抑制作用を有する新規候補物質の探索,およびii) 申請者がこれまでに発見した候補物質の詳細な薬理作用の検討を挙げていた.i) については,当研究室でOBXマウスにおける認知機能改善効果が見出されたBacopa monnieriのタウ蛋白リン酸化抑制作用について検討したが作用は認められず,今のところ新たな候補物質は見出せていない.だがii) については,これまで申請者が見出してきたGSK-3β酵素活性阻害作用が見出された黄ごん由来フラボノイド類を用いることにより,初代培養細胞においてGSK-3βを阻害することによりタウ蛋白リン酸化を抑制することを示唆する結果が得られている. In vivoにおいては,モデル動物として慢性緩和ストレス(Chronic mild stress; CMS)マウスによる検討を目的としていたが,CMSマウスでは認知機能低下は認められたものの,顕著なタウ蛋白リン酸化は認められなかった.そのため,アルツハイマー病のモデル動物であるOBXマウスに切り替えて検討した.本モデルマウスではCMSマウスと同様に,顕著なタウ蛋白リン酸化は認められなかったものの,脳内GSK-3βが活性化する傾向が確認されたため,手術後の期間など条件を再検討して現在実験中である.また,次年度で使用するために老化促進マウス(Senescence accelerated mouse prone-8; SAMP8)は既に購入済みであり,まもなく薬物投与可能月齢となる. 以上の事から,本年度の進捗状況はおおむね順調に進展していると考えられる.
|
今後の研究の推進方策 |
現在,条件を再検討して作成したOBXマウスに黄連解毒湯を投与している.今後は漢方を投与したOBXマウスを用いて物体認識試験(object recognition test)および恐怖条件付け試験(Fear conditioning test)等の学習行動試験を行うことにより,黄連解毒湯の認知機能低下改善作用について検討する.また,それらのマウスを用いて脳内GSK-3β活性に対する黄連解毒湯の効果を検討するとともに,タウ蛋白リン酸化をはじめとした関連因子の薬理作用について免疫染色法やWestern blotting法などで解析して,認知機能との相関性を検討する.さらに,OBXマウスと並行して本年度よりSAMP8を用いた検討を開始する.黄連解毒湯をはじめとした漢方および参照薬は2か月間投与を予定しているため,この間にOBXマウスに対する黄連解毒湯の効果に対する検討を終える予定である. 一方,in vitroについては引き続き新規候補物質の探索を行うとともに,作用の認められた生薬についてOBXマウスを用いたin vivo実験に移行するとともに,有効成分を単離・同定する.生薬の既知有効成分が市販されている場合は購入し,生薬と同等の効果を発揮するかを前年度in vitro実験の手法で検討するとともに,生薬エキスより有効成分を単離して,その構造を解析していく.ただし,化合物の単離・同定に関しては,一部は富山大学の他研究施設に依頼する予定である.
|