今年度は黄連解毒湯(OGT)及び三黄瀉心湯(SST)を用いた老化促進マウス(SAMP8)の認知機能低下及び脳内GSK-3β活性に対する影響の再試験を行った。前回同様に6ヶ月齢より漢方を経口投与し、一月後に行動実験を行った。その結果、SAMP8ではSAMR1と比べて、新規物体認識試験による短期記憶及び、恐怖条件付け試験による長期恐怖記憶の障害が見られ、OGT及びSSTを投与することにより、SAMP8の短期記憶障害は有意に改善したが、長期恐怖記憶障害は改善されなかった。 短期記憶障害は嗅内皮質、長期恐怖記憶は海馬に依存した記憶であるため、次に嗅内皮質を含む大脳皮質と海馬を摘出し、それぞれのGSK-3β活性をキナーゼアッセイにより解析した。その結果、大脳皮質ではSAMP8のGSK-3β活性が上昇し、この活性はOGT及びSST投与群で有意に抑制された。しかし、GSK-3βの不活性化に関与するSer9のリン酸化は、各群で有意な差はなかった。これらのことからSAMP8では、大脳皮質のGSK-3βがリン酸化非依存的に活性化し、両漢方は、この活性化を抑制することが示唆された。また、海馬のGSK-3β活性は各群で変化がなかった。 他方、GSK-3β標的分子であるtauのSer396リン酸化は各群で差がなく、SAMP8の記憶障害にはtauは関与していないことが示唆された。そこで、他の標的分子について解析したところ、軸索形成に関わるcollapsin response mediator protein 2 (CRMP2)のリン酸化がSAMP8では有意に増加しており、この増加は漢方投与群で有意に抑制された。 以上より、黄ごん含有漢方である黄連解毒湯と三黄瀉心湯は、SAMP8において大脳皮質のGSK-3β活性化を抑制することにより、CRMP2のリン酸化を抑制し、短期記憶障害を改善することが示唆された。
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