根、茎、葉は全ての維管束植物がもつ重要な器官である。陸上植物の形態進化において、1本の単純な軸をもつコケ植物段階から維管束植物段階へと進化したとき、軸が分枝する能力を獲得し、茎と葉が進化したと推定されている。したがって、3器官の形態進化を知るためには、軸の分枝の進化過程を明らかにすることが重要である。 維管束植物の系統関係で、最も基部に位置するシダ植物小葉類は、根が茎と同様に外生分枝する特徴をもつ。したがって、小葉類は系統的にも形態的にも根の形態進化を明らかにする上で重要な分類群であると考えられる。本研究では、シダ植物小葉類3科(イワヒバ科、ミズニラ科、ヒカゲノカズラ科)の根頂端分裂組織(RAM)の構造と分枝様式を明らかにすることを目的とした。 小葉類3科のRAM構造は、他の維管束植物(シダ植物大葉類、種子植物)に匹敵するほど多様であることが本研究結果から明らかになっている。小葉類3科のうち、ヒカゲノカズラ科ヒカゲノカズラは種子植物の開放型に似たRAM(根頂端分裂組織)構造を示し、RAM中央部に静止中心(QC:種子植物に存在する細胞分裂頻度の極度に低い領域)様領域をもつ。分枝時、QC様領域は拡大し、そのほぼ中央部に分裂細胞群が生じる。発達が進むと、分裂細胞群が横方向に広がり、QC様領域が2分裂し、新たな2つのRAMが生じて、二又分枝することが明らかとなった。一方、ヒカゲノカズラの茎はSAM(茎頂分裂組織)の中央に分裂頻度の低い領域(CZ)が常に存在し、分枝時、主SAMのCZの領域は変化せず、その側方に新たなCZが形成され、新しい側枝SAMが形成されることが明らかとなった。以上の結果から、ヒカゲノカズラの根は、元のRAMが二分裂することによって分枝するが、茎は単軸分枝の様式をもつことが示唆され、ヒカゲノカズラの根と茎は異なる分枝様式をもつと考えられる。
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