研究課題
惑星質量天体や褐色矮星の存在頻度や空間分布が、形成される環境によって差異があるかに着目し、(1)活発な星形成が行われている高密度分子雲、及び、(2)星形成が明らかでない低密度分子雲について多波長測光探査観測や分光探査観測により調査した。(1)銀河系の渦状腕にあるオリオン座B分子雲について、深い近赤外測光探査観測、及び、多波長測光観測データとあわせた解析を行った。オリオン座分子雲には、ガス・ダスト共に密度が高く、若い大質量星や近年急増光したFUOri型原始星が存在する。本研究で、誕生したばかりの低質量星、褐色矮星、惑星質量天体候補が新たに数百個同定された。電波や遠赤外観測との比較から、ガス・ダストの比較的密度の高い場所に褐色矮星が存在するのに対し、惑星質量天体はガス密度によらず一様に存在していること、褐色矮星の存在頻度は、大質量星の有無や分子雲のガス・ダスト密度によって一様ではない傾向が示された。(2)銀河系内の渦状腕から離れた場所に位置する高銀緯分子雲について可視分光探査観測、及びデータ解析を行った。高銀緯分子雲は分子ガス・ダストの密度が低く、多くが星形成が行われていない分子雲であると考えられている。本年度は、3つの分子雲領域の解析を進め、十数個の誕生したばかりの天体を新たに同定した。スペクトル型を求め、測光観測データから求めた光度とあわせて、質量を導出した結果、若い褐色矮星と考えられる天体も存在した。さらに電波観測から求めた分子ガスの分布と比較すると、質量が重い天体、また年齢の若い天体ほど分子ガス密度が大きい場所に存在する傾向が見られた。これらの研究成果は、昨年度までの研究成果とあわせて、日本天文学会や星形成に関する国際・国内会議などにおいて招待講演含めて発表するとともに、学内外における講義や講演会、科学教室、雑誌記事やホームページなどを通じて、情報発信を行なった。
3: やや遅れている
本研究課題は、多波長測光・分光観測によって、誕生したばかりの惑星質量天体及び褐色矮星を探査するのが目的である。銀河面付近にある近傍星形成領域を対象とした近赤外測光観測探査のデータ解析や結果に基づく議論はおおむね進みつつあり、国内外のいくつかの学会などでも成果を発表している。他方、銀河面から離れた低密度分子雲については、ハワイ大学2.2m望遠鏡を用いた、より広範囲の可視分光探査観測を計画していたが、平成28年度は本計画で用いる可視広視野撮像分光装置が望遠鏡に搭載されず、デコミッションすることが決まったため、新たな領域へ広げる観測については進めることができなかった。加えて、昨年度の平成27年度は望遠鏡が共同利用公開されず使用できなかった。本研究の目的である分光探査には本望遠鏡と装置が最も適切であるため、今後研究計画を再検討するために次年度に繰り越しを行なった。そのため、現在までの進捗状況は、やや遅れていると自己評価する。
平成29年度は、銀河面付近の活発な星形成が見られる領域や、銀緯が高く星形成がほぼ起きていないと考えられている低密度分子雲領域についての観点に加えて、分子雲のガスやダストの密度や、大質量星の紫外線など外的要因など環境の違いで惑星質量天体や褐色矮星の形成頻度が異なる傾向を、電波観測などと相補的に調べる。さらに、昨年度までに見つかった若い超低質量天体の候補について、フォローアップの分光観測や多波長データとあわせた詳細な解析による検証を進める予定である。加えて、広範囲にわたる可視分光探査観測を計画しているが、本観測に最適なハワイ大学望遠鏡及び広視野スリットレス分光観測装置が利用できなくなったため、別の観測手法、もしくは違うアプローチを検討しながら進めたい。これまでに観測したデータについてはデータ解析や議論は順調に進んでいるため、別の望遠鏡や観測装置を用いた代替観測が実施できない場合には、従前のデータで研究をまとめるように努める。また、これまでに得られた観測結果と比較考察し、分子雲や領域ごとの超低質量天体の統計的性質を調べて、質量関数や空間分布の環境による差異からその形成過程や頻度を探る。さらに、これらの観測や研究成果については、学会や論文などでを行なうとともに、各種講演や学内外の講義、雑誌記事やホームページなどを通じて、一般市民を対象とした研究成果の情報発信も積極的に推進していく予定である。
本研究で実行する観測は、アメリカ・ハワイマウナケア山のハワイ大学2.2m望遠鏡と可視光広視野スリットレス多天体分光装置を用いた分光探査観測であったが、今年度は装置が望遠鏡に搭載されず、加えて共同利用公開がなく、観測が行えなかったため、観測旅費として用意していた予算が未執行となった。本研究の柱の一つは、ガスやダストの密度が低い分子雲についての広視野分光観測による脇超低質量天体探査であり、他の装置では代用できないため、別の方法などを検討する。
繰越金については、他の共同利用望遠鏡や装置を用いた観測を検討し、その共同利用観測や打ち合わせに赴くため、及び、研究成果を発表するための国内外の学会に出席する旅費などに充当する。また、データ解析のバックアップ環境を整える予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (21件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 図書 (1件)
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