オーステナイト系ステンレスでのSUS316について格子欠陥と応力振幅一定条件での疲労特性の関係について引き続き調査を行った。応力振幅を変化させた疲労破断材を作製し、陽電子寿命測定を行った結果、応力振幅が大きいほど疲労破断材の平均陽電子寿命は高いことが初めて明らかになった。得られた陽電子寿命スペクトルを多成分解析し、格子欠陥評価を行ったところ、応力振幅が大きいほど転位密度、空孔クラスター密度が高く、空孔クラスターサイズが小さいという結果が得られた。また、応力振幅、転位密度、空孔クラスター密度は疲労過程での塑性歪振幅、疲労破断繰り返し数等の疲労特性と良い相関があることが示唆された。これらの結果は疲労サイクル中の塑性変形量によって疲労破断時の格子欠陥量と疲労破断繰り返し数が大きく影響を受けることを示しており、陽電子寿命法による非破壊での格子欠陥評価による塑性歪振幅や疲労破断繰り返し数の推定への応用が期待される。次に空孔クラスターが疲労特性に与える影響について調査を行った。応力振幅一定の条件で疲労中断材を作製し、空孔クラスターのみが回復する低温で焼鈍を行った後に疲労試験を再開することで、塑性歪振幅と疲労破断繰り返し数への影響を調査した。その結果、空孔クラスター密度が高い高応力振幅側のみで、低温焼鈍によって塑性歪振幅が減少し疲労破断繰り返し数が増加する傾向が見られた。このことから疲労過程で導入される空孔クラスターが疲労特性に影響を与えていることが示唆された。また、疲労中断材の引張試験の結果、疲労過程での格子欠陥導入により耐力が疲労前の溶体化材よりも減少し、低温焼鈍によって耐力が増加することが確認された。これらの結果は疲労過程での格子欠陥の導入により、耐力が減少することによって塑性歪振幅が増加していること、空孔クラスターの寄与を考慮する必要があることが示された。
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