概要 視覚芸術のための展示装置である美術館が、もはや視覚文化のみならず、あらゆる表現文化を収集、展示するような美術館の概念の拡張化が進む中、本研究は、20世紀後半以降の日本の美術館建築が、その概念変遷に大きく影響関係を示していることを明らかとしてきた。本研究の目的は、日本における美術館建築史の全体像を提示することとし、さらに、美術館内部の展示空間設計の変遷が、従来の美術史学と展示学の形態論的交差の中で進んできていることを提示することとした。 その為にまず、前川國男の美術館建築と磯崎新の美術館建築についての資料収集情報整理を中心に研究を行った。そしてそれらを踏まえた上で、谷口吉郎の美術館建築論の特性を明らかにすることとなった。 (研究論文「日本の美術館建築における劇的空間是非論ー谷口吉郎の東京国立近代美術館設計論を中心にー」『フィロカリア』2014年3月第31号所収) 本論文では、谷口が、他の建築家と同様に西洋建築や西洋の美術館の影響下にありながらも、「日本の美術」、「日本の近代美術」の概念形成に積極的に関わり、能舞台や能の役者理論を援用しながら展示空間を設計させた、日本独自の展開を見せていたことを提示し、その劇的空間論の及ぼした日本の美術館建築への影響関係を考察した。 また、建築家が建築という枠を超えたインスタレーション的建築を展開し始めた60年代以降の西欧圏の作例などを比較軸とし、建築家と同時代のモダン・アートとの接近性を明らかにした。
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