研究期間全体を通じて,複数の投資プロジェクトへの資金配分の決定とそれを踏まえた最適借入契約の特徴づけを行ったうえで,自己資金の水準が最適契約とその結果実現する資金配分の内容に及ぼす影響について分析した。その結果,自己資金の水準が中間的なレベルであるときには,借入量が過少で,資金配分に歪みは生じないものの,いずれのプロジェクトへの投資水準も過少となること,自己基金の水準が極めて低いときには,場合によって,借入量が過剰となり,リスクがある(高い)プロジェクトにより多くの資金が投資される形の資金配分の歪み(資産代替)が生じることが判った。この結果は,各プロジェクトに対する投資水準,借入総量,資金配分の歪みの有無が,自己資金の水準の変化に応じて,非連続的に変化することを意味しており,従来の研究では明らかにされていなかった,各現象の間の関係を説明する理論的仮説を提供することとなった。 本研究では更に,資金調達と寡占市場での競争との関係についても分析を行い,資産代替問題の存在と自己資金の水準の変化が均衡における余剰に及ぼす影響について,自己資金の水準が中間的な水準の場合は資産代替問題の存在と自己資金の減少が総余剰を低下させること,自己資金の水準が極めて低い場合には資産代替問題の存在が却って総余剰を増大させ得ること,自己資金が増加してその閾値を超える場合には利潤および総余剰が減少する可能性があることなどを明らかにした。従来の研究でも,初期負債の増加(自己資金の減少)が却って企業の利潤を増加させる可能性について指摘されているが,この関係が単調ではないことを示した点が本研究の貢献である。 最終年度には,主に,上記の後半にあたる分析を行い,明らかになった内容(上述)を研究会で報告した上で,論文執筆に取り組んだ。
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