1990年の「出入国管理および難民認定法」改正以降、増加したブラジル人の滞在形態に永住化の傾向がみられ、日本で暮らすブラジル人にも高齢化の波が押し寄せようとしている。こうした状況下、本学の卒業生が「介護する側」、あるいは、「介護される側」として存在するブラジル人とともに介護現場で働くことを想定し、ブラジルと日本の介護文化においていかなる違いが存在するか、ブラジル人との接触場面においていかなる知識や能力が必要とされるかを探り、本学で実施されている授業に還元することで、即戦力として活躍できる人材を育成することを目的とした。そして、ブラジルの高齢者介護施設を訪問し、ブラジルの介護事情について調査するとともに、ブラジルの日系人高齢者介護施設において、ブラジル人の介護に現在携わっている日本人介護スタッフを対象にインタビュー調査と参与観察を実施した。その結果、何でもしてもらう、何でもしてあげる、という概念が、実は日本の介護独特のものであり、特に、異なる文化的背景を有する介護利用者をケアする場面にこの概念をあてはめた場合、うまく機能しない可能性があるということを介護スタッフ自らが理解しておくべきであること、そして、日本社会の多文化化に伴い、高齢者施設に入居する介護利用者も多様化する中で、日頃の何気ない介護利用者との会話や観察を通して介護利用者一人一人のニーズがいったいどのようなものかを把握しておくことが何よりも重要となってくるということがこのたびの調査より明らかになった。また、介護現場で毎日のルーティンワークの中で求められる最低限必要なポルトガル語の知識がいかなるものなのかも具体的な例とともに明らかになった。
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