HLAクラスI分子に提示され、宿主T細胞の標的分子となる抗原ペプチドを用いたがんペプチドワクチン療法の臨床研究において、ワクチンを投与した一部の患者群で有意な延命効果を認めている。ペプチドワクチン臨床試験に参加の患者血液を解析すると、臨床効果の得られた患者の多くは、ワクチン投与により細胞傷害性T細胞の機能増加がもたらされたのみならず、ペプチドに対する抗体が増加していることが確認されている。近年、人工的に作成された抗原ペプチド・MHC(pMHC)複合体を認識する抗体が報告されているが、ヒト血液中でのpMHC複合体を認識する抗体の報告は皆無である。本研究ではヒト末梢血よりpMHC複合体を認識する抗体を検出し、その生物学的機能について解析することを目的とした。 久留米大学にて実施のペプチドワクチン臨床試験に参加の被験者より得た末梢血より、pMHC複合体を認識する抗体を表面プラズモン共鳴(SPR)により検出した結果、非常に低い親和性・結合量ながら、pMHC複合体に対する抗体が検出された。しかしながら、pMHCアフィニティーによる抗体の精製はその低い親和性により精製が困難であった。プロテインGによるIgG精製後、生物活性を検討するため、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を調べたが陰性であった。次に、ヒト末梢血より単核球を分離しペプチドとともに培養する際、抗体を添加したものとしていないものを設定し、IFN gamma ELISPOT法によりリンパ球の活性について検討した。その結果、抗体添加の条件が、添加していないものよりリンパ球活性化が増加する傾向にあった。一部の試料ではpMHCを認識する抗体を認めるが、多くの検体では検出が困難であったため、pMHCを認識する抗体はペプチドワクチンの抗腫瘍効果における主たる作用機序ではなく、副次的なものと推測された。
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