研究課題/領域番号 |
25871049
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 沖縄工業高等専門学校 |
研究代表者 |
佐藤 尚 沖縄工業高等専門学校, メディア情報工学科, 助教 (70426576)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | コミュニケーションの創発 / マルチエージェント・システム / 衝突回避ゲーム / 強化学習 / Q学習 |
研究概要 |
本研究では、原始的コミュニケーションがジェスチャーで行われていたという言語の起源に関する仮説に基づき、コミュニケーションとは関係ない目的を持った「動作」がどのようにしてコミュニケーションを成立させる「記号」として用いられるようになるのか、またそれは、どのような能力を持つ個体間において、どのような条件が必要であるのかを明らかにすることを目的とする。 平成25年度に行った研究では、過去の履歴情報を考慮できるQ学習法を採用した個体群による衝突回避ゲームを通したコミュニケーション創発実験を行った。この衝突回避ゲームでは、2次元連続空間上に複数個体とそれらのためのゴールをランダムに配置する。各個体は扇型の視界を持つ2輪駆動型とし、入力情報としてゴールまでの距離や角度、視界内の最近傍個体の進行方向の角度(α)と視線の角度(β)などの情報を得ながら自分のゴールに到達することを目標として移動する。 本研究では、他個体の角度情報が個体の振る舞いに対してどのような影響を与えるのかを調べるため、現時刻および前時刻のαとβの入力の組み合わせを9種類用意し、シミュレーション実験を行った。 実験の結果、αとβの単独入力時より、αとβとそれぞれの前時刻の情報を加えることで衝突回数が減らせることが分かった。αは自身の最近傍の相手の移動方向を示すもので、前時刻のαと組み合わせることによって、相手がどの方向へ向かっているかを知ることができるため、衝突回避に役立ったのだと思われる。一方、βは相手との衝突回避に何の役にも立たないはずであるが、前時刻のβを組み合わせることで衝突回避を促進できたことから、何らかのコミュニケーションプロトコルが創発した可能性が示唆される。現在はまだ大まかなエビデンスしか得られていないが、早急にデータを解析し、βがどのように利用され、具体的にどのような影響を与えるのかについて明らかにしたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成25年度の研究計画では、8月までに衝突回避ゲーム・システムを構築する予定であった。本システムは、100個体のエージェントによるマルチエージェント・システムとして構築し、各エージェントが多次元情報を入力として受け、それぞれが独立に強化学習を行い、各自の車輪や視線を動かす計算を行うという非常に大規模なものとなることから、より高速に計算できる計算サーバが必要となった。 ちょうど6月に商用計算サーバとしては比較的安価でありながら、極めて高い計算能力を有する計算機が発表されたため、この計算機の導入を決定した。しかしながら、この計算機の発売は非常に遅れたため、この新計算サーバが納入されるまでの間、所属機関既設の旧計算サーバ上でシステムの開発を行った。ところが、旧計算サーバの故障が相継ぎ、開発、およびシミュレーション実験は難航してしまった。 これらが原因で、11月が論文提出期限だった、平成26年1月に開催された国際会議への参加を断念せざるをえなかった。また、新旧両計算サーバで開発・実験を行い、コミュニケーション創発のエビデンスとなる実験結果は得られたものの、実験で得られた結果の解析がまだ不十分である。現在、鋭意データ解析中で、この結果が出次第、既に得られているエビデンスと共にまとめて論文投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、想定していた時期に研究結果を出すことができず、国際会議での研究発表を行うこと、および国際学術誌への論文投稿を行うことができなかった。 しかし、平成26年度に実施予定の研究で用いるRecurrent-Qは、強化学習の1つであるQ学習とニューラルネットワークの1つである再帰型ネットワークを組み合わせたものであり、後者のモデルについては、過去10年に渡って自身の研究で用いてきた実績のあるものであるため、使用に関するノウハウや研究資産を利用可能である。 平成25年度は重要な校務にも従事していたため、予定していたエフォートがかなり下回ってしまった。しかし、平成26年度は、研究はもちろん、それ以外の業務を更に効率化し、遅れを取り戻す所存である。 なお、平成26年度の研究計画では、12月までに国内学会での発表、その後、3月までに国際会議での発表を予定していた。しかし、不十分な研究成果の発表とならないようにするため、国内学会への参加は3月に延期し、万全を期したいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は、計算サーバ購入費、研究打合せ出張費、国際会議参加費および論文投稿料を直接経費70万円で賄う予定であった。しかし、研究打合せに関しては、研究協力者である北陸先端科学技術大学院大学の橋本教授のご厚意により、旅費等を提供して下さったため、こちらからの出張費は発生しなかった。また、上述の通り、計算サーバ発売が非常に遅れたことにより、国際会議への参加は断念せざるをえず、全ての計画を見直すこととなった。計算サーバは向こう3年間の研究で使用することになるため、可能な限りスペックは高い方が良いと判断し、直接経費70万円を計算サーバの新規購入に充てた。どのようなスペックの組み合わせにしても計算サーバの価格を70万円丁度にはできず、720円が余ることとなった。 平成26年度で交付予定の直接経費230万円と前年度の残金720円の使用計画は、国内学会および国際会議参加費・出張費、および論文投稿料等に50万円、平成27年度に実施予定のロボットシステムを平成26年度末に構築予定であるため、その購入費用に180万円、残る720円はホワイトボードマーカーの購入に充てる予定である。
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