申請者の最終目的は未だその概要が判然としない中世末期の世俗美術の展開の諸相を解明することである。本研究課題では1400年前後の北伊・南仏で制作された世俗主題の絵画作品、特に狩猟図がみられる作品に焦点を絞り、作品分析を基盤とし、その実態と変遷を、場とパトロン、芸術家と作品の移動という観点からも考察することを目的としている。以下、平成26年度の研究実績を交付申請書に記した「研究計画・方法」に沿って報告する。 ①現地での作品調査:本研究課題は調査対象とする作例が幅広く、質の高いカラー図版が公的刊行物に掲載されたことのない作例も多いため、撮影を含めた実地調査が必須であった。2年目は残りの研究対象の調査を主にパリ、アヴィニヨン、ティロル地方で敢行した。特筆すべきはアヴィニヨンで市の文化遺産担当者の協力で非公開の壁画の調査が叶ったことであり、研究進展の大きな一助となった。 ②データ整理、図像分析の継続と、関連する研究領域の成果の受容:収集した各種資料の整理、それに基づく図像分析を継続した。また、歴史学を中心とした隣接諸学科の成果を積極的に取り入れ、初年度から行ってきた実地調査と図像分析から得られた結果と照らし合わせることで、1400年前後の北伊・南仏の世俗美術の制作状況の一端が解明されつつある。 ③研究成果の発表:初年度の計画遂行によって得られた第一次成果と、平成26年度の計画遂行によって得られた考察結果をあわせて研究報告、論文を執筆し投稿したところである。特に論文では14 世紀末アヴィニヨン制作の『狩猟の書』における狩猟図と、未だ満足な研究がなされていない同様の特質が看取できるその他の狩猟図との具体的な比較分析を試みた。結果、中世末期の狩猟図の展開の諸相の一端が明らかになったと考えている。また、研究対象作品を取り入れ、より幅広い読者層へ向けたエッセイの執筆も行い平成27年1月に刊行された。
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