申請者の最終目的は中世末期の世俗美術の展開の諸相の解明である。本研究では1400年前後に北伊・南仏で制作された世俗主題の絵画作品から特に狩猟図がみられる作品に注目し、その実態と伝播を、作品分析を基盤としつつ、場とパトロン、芸術家と作品の移動という観点からも考察することを目的とした。 研究成果で特筆すべきは、14世紀末のアヴィニヨンで制作された『狩猟の書』写本の狩猟図とほぼ同時期に制作された南ティロルの壁画の狩猟図との間に留意すべき類縁性が見出された点である。さらに、作品成立の歴史的背景の考察を通じ、この類縁性は当時の南仏と南ティロルをめぐる文化および政治交流に起因することが推察されるに至った。
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