本年度は、2013年度の調査蓄積を踏まえ、「倫理的認証ラベル」の社会的機能をめぐる経験的研究と理論的研究の統合を図った。この統合的分析を学会誌、学会報告で広く公表することが本年度の主な研究実績である。その研究結果は、主に以下の3つの研究業績を通じて公表した。 (1)論文「コミュニケーション・メディアとしてのソーシャル・ラベル」:本論文では、倫理的認証ラベルがコミュニケーション・メディアとして機能することによって、機会主義的な市場参加者の自由選択にもとづく倫理取引というパラドキシカルな事態を可能にしている側面を明らかにした。それは、「必ずしも善意を条件としない倫理的経済」であり、こうした倫理的経済のあり方を異質な他者間の連帯・共生のモデルとして理解できる可能性を示した。 (2)論文「フェアトレードの分水嶺」:本論文では、フェアトレード認証制度をめぐる「提携型」と「認証型」の論争に焦点を当てて分析した。倫理的認証ラベルに対する提携型の批判は重要な問題を提起しているが、しかし、認証制度の持つ「市場を通じた社会的公正」という新たな位相は、自由と公正の新たな関係を見据えた制度的枠組みであることも明らかにした。 (3)学会報告「食の安全・安心をめぐるリスクと信頼」:本報告では、倫理的認証ラベルの意義を「リスク論」および「信頼論」の問題へと拡張して論じることを試みた。認証制度の台頭は、「人格的信頼」から「システム信頼」への移行という文脈のなかに位置づけられるとともに、「道徳意識」から「リスク感覚」への移行という文脈のなかに位置づけられることを、その中で明らかにした。 以上の3つの研究を通じて、倫理的認証ラベルの現代社会における意義が問い直されたとともに、「善意を条件としない倫理的経済」という新たな位相の可能性と問題がどこにあるのかということがより明確となった。
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