研究課題/領域番号 |
25887038
|
研究種目 |
研究活動スタート支援
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
梶野 直孝 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (90700352)
|
研究期間 (年度) |
2013-08-30 – 2015-03-31
|
キーワード | フラクタル解析 / ディリクレ形式 / 熱核 / ラプラシアン / 測度論的リーマン構造 / 国際研究者交流(アメリカ) |
研究概要 |
平成25年度はラプラシアンの固有値についての既知の漸近挙動と,ラプラシアンのベキ乗のDixmierトレースとの関係について主に研究を行った.後者は実質的には前者の作用素論的言い換えとみなせることが期待され,滑らかな空間においてはそのことはConnesのトレース定理としてよく知られており,また自己相似フラクタル上のラプラシアンに対しても木上-Lapidusの研究によりかなり強い条件の下では同様の関係が成り立つことが知られていた. 筆者は同様の関係が広汎なDirichlet形式に対して成り立ち,特に本研究課題の主研究対象の1つであるSierpinski gasket上の測度論的リーマン構造や,ある種のrandomフラクタルにおいても,そこでのラプラシアンが同様の関係を満たすことを示した. さらにこの関係が空間の体積の概念を作用素論的に記述したものになっていることを考慮し,発展問題として領域の境界における面積分の概念を同様に作用素論的に記述することができないか考察した結果それが概ね可能らしいとの感触を得た.この問題の完全な解決が直近の課題である他,この面積分に関する結果がSierpinski gasketやその他のフラクタル上の測度論的リーマン構造の枠組みで適用できるかどうかは不明でありその解明が今後の課題である. 上記の研究に関連して,平成26年1月~2月にかけてUniversity of California Riversideを訪問しセミナー発表や討論を行った.また日本国内でも9月24~27日に愛媛大学で開催された日本数学会秋期総合分科会,12月に京都大学数理解析研究所で開催された研究集会「確率論シンポジウム」をはじめとして各地の研究集会に参加し討論や関連する研究内容についての研究発表を行った.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該研究課題の応募時点においては解決可能性が未知数であったDixmierトレース関連の問題意識については,Sierpinski gasket上の測度論的リーマン構造を含む非常に広い枠組みで予想された結果が得られた他,それをより発展させた新しい問題についても解決の目処が立ち,さらにそのSierpinski gasket上の測度論的リーマン構造への適用可能性の証明という新たな研究課題の発見につながるなど順調に研究が進んでいると評価している. しかしその他の課題,すなわちSierpinski gasket上の測度論的リーマン構造に対する既知の結果の他の自己相似フラクタルへの拡張とその限界の見定めについては残念ながらあまり考察を深めることができなかった.さらに本研究課題の重要な背景になっているSierpinski gasket上の測度論的リーマン構造に対する筆者の重要な未発表結果についても,その内容をまとめた論文の執筆は本研究課題との密接な関連から急務であるのだが平成25年度中には果たすことができなかった. 以上のことから,Dixmierトレース関連の研究については測度論的リーマン構造の枠組みを超えて更なる発展の可能性を見出すに至っており大変順調である一方,本研究課題の本来の中心的な問題意識であった測度論的リーマン構造の枠組みの拡張可能性についてはあまり研究を進めることができておらず,全体としては当初の研究課題の達成はやや遅れ気味であると評価せざるを得ない.
|
今後の研究の推進方策 |
まず本研究課題の重要な背景になっているSierpinski gasket上の測度論的リーマン構造に対する筆者の重要な未発表結果について,その内容をまとめた論文の執筆を速やかに行う.Sierpinski gasketでの結果の一部がpolygasketと呼ばれる範疇の自己相似フラクタルに対して拡張できることは既に見当がついているので,次にそれを厳密に証明し論文にまとめる. その他の研究対象としては2次元多段Sierpinski gasket,3次元以上の高次元標準Sierpinski gasket,及び複数の多段Sierpinski gasketの構成法をrandomに混ぜ合わせて得られるrandom Sierpinski gasketを考えていた.これらのフラクタル上の測度論的リーマン構造は幾何学的性質が悪く解析が困難であることが予想されるため,満遍なく全ての場合を取り扱うのは残念ながら現状ではあまり現実的ではない. そこで既知の状況である(2次元標準)Sierpinski gasketの場合からの類推が利かず本質的に新しい現象が起きていることがより期待される,3次元以上の高次元標準Sierpinski gasketの場合を差し当たり考察するべきであろうと考えている. そうは言っても2次元多段Sierpinski gasketやrandom Sierpinski gasketの場合も重要ではあるので,これについては当初の計画通り英国のB. M. Hambly 氏 (University of Oxford) 及びD. A. Croydon 氏 (University of Warwick) を訪問して議論を深めようと考えている.
|