研究課題
①シロイヌナズナにおける繁殖期間終了の遺伝的変異を利用して、植物繁殖期間の終了を制御する因子を同定することを目的とした研究を実施した。まず、原因遺伝子の同定を目指して、繁殖期間の終了に関するミュータントスクリーニングを実施した。さらに、野外で育成させたシロイヌナズナの繁殖同調における老化関連遺伝子の発現タイミングを調べた。合計 2590 株の EMS 変異系統の栽培を行い、同時期に植えた野生型よりも枯死の遅いものを選抜した。その結果、193 個体の EMS 変異系統が対照である野生型よりも遅く枯死した。これら選抜系統には、矮性あるいは不稔のものが多く含まれていた。野生型と変わりない草丈のものが 68 系統選抜され、そのうち標準的な鞘の形成をしたものが 26 系統得られた。今後は、これら 26 系統について再度、栽培実験を行うと共に変異した遺伝子の特定、単離を行い、さらに遺伝子の機能解析へと研究を進める予定である。② 鍵遺伝子FLCのヒストン修飾を介して自然条件下でのバーナリゼーション応答を評価した。自然条件下におけるFLC遺伝子座領域におけるH3K4me3(活性型ヒストン修飾)とH3K27me3(抑制型ヒストン修飾)の動態についての2年間にわたる解析が終了し、その動態をモデリングした。また、グロースチャンバーを用いて、気温変化のパターンを操作した実験を行い、ヒストン修飾を解析した。③ハクサンハタザオのトランスクリプトームデータをもとに、過去の長期の気温と遺伝子発現の関係を解析した。また、トランスクリプトーム解析により、植物ウイルスの検出とハクサンハタザオの遺伝子応答を同時に検出できることを見出した。ウイルス感染の有無により発現が異なる遺伝子群をリストアップした、また、そのリストは季節によって変化することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、全体期間を通してとして①生育終了'の同調をもたらしている鍵因子の同定、②自然の複雑な状況に焦点を当てた自然集団の時系列ヒストン修飾解析による機能理解、③トランスクリプトームデータのバイオマーカーとして利用を目指している。①については、生育終了のスクリーニングという大規模な野外栽培を実施し、合計 2590 株の EMS 変異系統の栽培の結果、26系統の候補変異体を得た。②については、開発した自然条件下でのヒストン修飾免疫沈降実験方法のプロトコルを整備し「フィールドChIP法」として報告した(Nishio et al., 2016)。また、FLCのヒストン修飾動態の結果により、環境記憶機構としてのヒストン修飾のモデリングに成功した。投稿に向けて解析中である。③については、物理要因と生物要因の両方で、トランスクリプトームをマーカーに使うための遺伝子群が明らかとなった。予定を越えることとしては、トランスクリプトーム解析によりウイルス感染の有無を検出したことである(投稿中)。このことにより、植物ウイルスと宿主植物の応答における同調性についても解析が可能となる道が開けた。本研究の概念的基礎となるアイデアを総説に発表し、分子フェノロジー(Molecular phenology)を定義した(Kudoh, 2016)。以上のように、当初の予定通り進捗している。
生育終了の同調因子についての今後は、これら 26 系統について再度、栽培実験を行うと共に変異した遺伝子の特定、単離を行い、さらに遺伝子の機能解析へと研究を進める予定である。近自殖系統を用いたQTLマッピングを実施したが、利用可能な両親系統間の生育終了タイミングの変異十分ではなく、むしろ、突然変異体の第2期スクリーニングを開始することとした。ヒストン修飾の動態については、自然条件下での動態モデリングにおいて推定されたメカニズムを検証する形での変温条件を設定したグロースチャンバー実験を実施する。トランスクリプトームのバイオマーカー利用については、物理環境のマーカーとしての利用に加えて、植物ウイルス量のような生物環境への利用を検討する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 7件、 招待講演 6件)
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