研究課題/領域番号 |
26282071
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
早川 典子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, 研究員 (20311160)
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研究分担者 |
川野邊 渉 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, その他 (00169749)
楠 京子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, 研究員 (20609820)
木川 りか 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, その他 (40261119)
本多 貴之 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, 研究員 (40409462)
山中 勇人 地方独立行政法人大阪市立工業研究所, その他部局等, 研究員 (40416368)
佐藤 嘉則 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, 研究員 (50466645)
酒井 清文 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, その他部局等, 研究員 (60416302)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ポリビニルアルコール / 酵素 / 活性阻害 / アクリル樹脂 / 溶媒吸着 |
研究実績の概要 |
本研究は三つの調査研究から成り立つ。一つは材料化学的調査であり、除去対象とする汚れの化学構造の把握を目的とする。二つ目は微生物酵素学的調査であり、材料の分析をもとに酵素の選定やその機能の評価を行う。三点目は現場での適用である。 1.材料化学的調査。本年度はアクリル樹脂の物性について化学分析を行った。文化財修復に多く使用されるアクリル樹脂、PralodB-72について、溶媒吸着に着目し、使用する有機溶媒が異なる場合、膜の物性も異なることをNMRとDSC、クラークこわさ試験等で評価した。 2.微生物酵素学的調査。本年度は、フノリや膠などの修復材料とポリビニルアルコール分解酵素の併用した場合の酵素の活性の阻害について評価した。その結果、酵素の活性阻害はほとんどなく、むしろ膠を使用した場合は活性が上昇することが確認された。 3.現場での適用。建造物彩色に使用されたポリビニルアルコールの除去に酵素を用いた。この際、酢酸ビニルと併用されていたポリビニルアルコールでも、酵素が有効であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、酵素を利用した文化財上の汚れ除去に関する基礎的な研究を行い、実際の修復現場における適用を目指す。文化財上の汚れの除去は保存修復において重要な作業の一つである。しかし作品本体を汚損するリスクを避けるため、安全に行える限定的な処置しかなされない側面もあり、十分な効果のあるクリーニングができずに終わる事例も多い。本研究では、酵素というきわめて選択的な化学反応をする生体触媒を用いることにより、喫緊の課題である安全で効果的な除去方法の開発を行う。酵素は反応選択性が高いため、汚れの種類を分析し、それぞれに効果のある酵素を探索した上、それらの文化財材料への影響まで含めて評価する必要がある。本研究ではこれらを包括的に研究し、文化財の保存修復への貢献を目的とする。 2015年度までは、主にポリビニルアルコールの除去に関して、酵素を用いた際の適用方法の検討を行ってきた。 金属酸化物である顔料の存在下で使用するため、顔料による活性阻害の影響確認や、現場での試験施工を行っている。一方で、経年劣化したPVA(実試料)上での酵素適用では、不溶部分が白色化することが明らかになり、その部分の溶解が今後の課題とされる。 アクリル樹脂に関しては、エマルション状態で使用されたアクリル樹脂の除去方法についての課題が生じており、酵素のスクリーニングを検討しており、古墳壁画等でパラロイドB72に発生したカビなどについて培養を検討中である。 溶菌酵素については、文化財構成材料についての影響評価は終了しており、古墳壁画の修復などに実用的に用いられ始めた。 デンプンを分解後、容易に不活性化する酵素が、修復現場では求められているが、これらについても低温での耐性のある微生物種からの探索を遂行中である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、ポリビニルアルコール分解酵素が残留した場合の、各種接着剤への影響を確認する。以前に顔料への目視確認を行っているが、測色による評価と、また、剥離強度試験による接着力への影響確認を行う。 さらに、現在の酵素では不溶な分子結合部分を溶解する酵素の探索も遂行する。溶菌酵素に関しては、評価されたデータの整理を行い、来年度の発表を目指す。 アクリル分解酵素、失活させやすいデンプン酵素の探索も並行して行う。
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