研究課題/領域番号 |
26282136
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
石橋 哲 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 講師 (30533369)
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研究分担者 |
和田 健彦 東北大学, 多元物質科学研究所, 教授 (20220957)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 脳血管障害 / 核酸医薬 / 虚血応答性核酸 / 脳梗塞 / 動物モデル / マウス / 人工核酸 / pH |
研究実績の概要 |
本研究において、脳梗塞に特異的な病態のみに効果を発現する虚血応答性核酸医薬を開発し、現在まで有効な治療法が開発できていなかった脳梗塞に対する神経保護療法を実現化させる。具体的には、医工連合により現段階で世界最高水準のin vivo遺伝子抑制効果を持つ独自のヘテロ核酸構造に、pH応答性人工核酸技術を導入した「細胞内環境応答型核酸医薬」を開発して、虚血脳組織に部位/時間特異的に治療効果を発揮する全く新しい発想の脳梗塞治療薬を創薬する。 実際に、共同研究者の和田健彦教授との共同研究によりpH低下時にのみ遺伝子抑制効果を発現する虚血応答性核酸の開発に成功した。脳梗塞病巣では細胞内pHが6.0-6.5程度に低下するが、目的とするpH低下状態で強く遺伝子抑制効果を発現することをin vitro脳梗塞モデル(OGDモデル)で確認することができた。 我々の研究室で開発したヘテロ核酸は従来の核酸と比較して数十倍以上の強い遺伝子抑制効果をもつことが特徴であり、直接脳室内に投与するのではなく経静脈的に投与した場合でも実際の脳梗塞モデルにおいて標的遺伝子を抑制させることに成功した。また、虚血直後には主には血管内皮細胞に6時間後には虚血領域の神経細胞に選択的に分布することが確認できた。 これらの結果から、血管内皮細胞や神経細胞に脳梗塞後発現が増加するMalat-1遺伝子を標的として人工核酸による制御を行った。Malat-1遺伝子は、非投与群と比較して約25%程度に低下することに成功しただけではなく、脳梗塞体積の拡大、血管内皮細胞分裂能の減少、神経学的後遺症の悪化など、脳梗塞の病態をも変化させた。さらに、虚血側大脳半球Malat-1遺伝子は抑制するものの、非虚血側大脳半球の遺伝子抑制効果は優位ではなく、虚血部位選択性を有していた。 これらの結果により、神経細胞死及び脳血管関門制御遺伝子を標的とした人工核酸を開発し、新たな脳梗塞治療が開発できると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
脳梗塞病巣は通常状態より酸性に傾き、pHが低下することが知られている。現在までに、in vitro脳梗塞モデルであるOGD(oxygen glucose deprivation)負荷による細胞内pHを測定し、虚血応答性核酸はpH低下に反応した選択的な遺伝子抑制効果を確認することが出来た。また、核酸の構造を改変(分子内導入フェニルボロン酸部位への置換基導入など)することにより目的とするpH(pH 6.0-6.5程度)に合わせ最適化された虚血応答性核酸を開発することに成功した。 また、in vivo脳梗塞マウスモデルを使用することによる同核酸医薬の虚血選択的遺伝子抑制効果を確認することができた。即ち、経静脈的に投与した人工核酸は、虚血部位選択的な遺伝子抑制効果を示すだけでなく、蛍光色素で標識した人工核酸を投与することにより解析した脳内での分布は、虚血中心部及び周辺部のみに認められた。 当初の実験計画通り、Proof of conceptとして脳内にユビキタスに発現するSR-B1(scavenger receptor)やMalat-1(metastasis associated lung adenocarcinoma transcript 1)遺伝子を標的とし、遺伝子抑制効果の有無を確認した。我々の開発したヘテロ核酸は、遺伝子抑制効果の乏しい中枢神経であっても強い遺伝子抑制効果を発揮した。さらに、非虚血側での遺伝子抑制効果はほとんどなく、pHの低下した虚血病巣での遺伝子抑制効果が中心であり虚血応答性核酸の強い選択性が確認された。Malat-1遺伝子は、血管新生に関連する遺伝子であることからMalat-1遺伝子を抑制することにより血管新生が抑制され、脳梗塞の悪化が見られる可能性がある。実際に我々の検討でも、脳梗塞体積の増加、血管新生の抑制が認められた。 経静脈的に投与した核酸医薬により、脳梗塞のphenotypeを変化させうることは、平成28年度の課題であったがすでに達成され、平成28年度は実際に最も治療効果の高い標的遺伝子への介入を行いたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、脳血管関門や血管新生を制御しているmicroRNAや遺伝子、及び神経細胞死を制御している遺伝子を標識とする人工核酸を作成し、マウス脳梗塞モデルでの改善効果の有無を検討する。 神経細胞死の中心的制御因子であるPARP-1(poly (ADP-ribose) polymerase-1)遺伝子、アストロサイト由来の神経保護因子で強い神経保護効果を示すことを我々が確認した(ガレクチン-1遺伝子, (米国特許出願番号US7785596B2))、活性化した血管内皮細胞にのみ発現し炎症制御により脳保護効果を発現するE-セレクチン遺伝子や内皮細胞を制御するmicro RNA (miR)などを標的として、虚血応答性核酸医薬の実際の治療効果を高い品質で検討する。 虚血再潅流モデルや中大脳動脈永久閉塞モデルなど複数のマウス脳梗塞モデルを作成し、MRI画像や病理学的に定量した脳梗塞体積、神経学的機能を主要エンドポイントに、STAIR基準に基づきその治療効果を、核酸投与量別、脳梗塞モデル別に評価を行う。効果が認められた治療法に関しては、糖尿病マウスなど疾患動物を使用した脳梗塞モデルでも同等の治療効果を発揮することが出来るかを確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度科学研究費補助金は、計画通り研究が進行しすべてを使用した。学術研究助成基金助成金に関しても、核酸の作成などにより200万円程度支出した。 研究計画は順調に推移し予想よりも進捗状況は良好であるが、平成27年度に標的としたSRB-1遺伝子、Malat-1遺伝子はすでに最適な遺伝子抑制効果を発揮する核酸の構造が判明していることから、予想より少ない予算で虚血応答性核酸を作成することができた。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、マウス脳梗塞モデルを使用したin vivo研究が中心となる。そのため、標的遺伝子に対する核酸医薬の構造設計、in vivo研究を中心とする大量の人工核酸の作成、脳梗塞モデル作成用マウスの作成や治療効果の評価などにより多額の費用がかかる。繰越した学術研究助成基金助成金を含めて使用する予定である。
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