研究課題/領域番号 |
26285201
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
藤本 登 長崎大学, 教育学部, 教授 (60274510)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 技術教育 / リスク認知 / 評価・活用 |
研究実績の概要 |
本研究では中学校技術分野において生徒にリスク概念の構築をさせ、電源インフラを中心とした技術・製品の評価を可能にさせるカリキュラムの開発を通して、技術の評価活用力を高めることを目的とする。そのために、まず技術教育でのリスクの取り扱いの歴史と授業実践の状況を明らかにすると共に、電源選択等のエネルギー変換技術を題材にリスク概念の構築と技術の評価活用に必要な関連情報データベースの構築を図る。 まず、技術教育におけるリスクの取り扱いの変遷・内容及び実施例に関する調査を行った結果、職業科の創設期から主に機械工作などの工具や機械を扱う場面でリスクが扱われてきたが、現行の学習指導要領からは情報モラルや電気製品の保守点検の内容で扱われるようになった。しかし、中学校技術分野ではリスクの概念化を図る実践的な授業は殆ど見当たらず、選択数学でのリスクを確率論的視点から扱った授業などに限られた。一方で原子力学会等では、一般を対象としたリスクコミュニケーションの事例報告が多く、義務教育段階での有用な情報は殆ど見られなかった。 また、技術分野でリスクを扱う方法を検討するために、技術担当教員や学生のリスク認知の状況とその教員が考えるリスクに関する授業を調査した結果、学生・教員にかかわらず、既に便益を受けているX線検査等の技術の利用は肯定的であるが、原子力発電所近郊での生活、新型インフルエンザや中国産食品は否定的であった。また、技術担当教員は、生徒に技術の光と影を伝え、 適切な技術の活用の方法を考えさせる手段として、リスク学習の必要性を感じていることが分かった。 さらに、電源選択を題材にリスク概念の構築と技術の評価活用に必要な関連情報を収集するために、関連書籍や文献を調査し22件の基礎データを抽出したが、生徒や学生に身近なデータの充実や電源インフラ情報のデータの精緻化と整理・提示方法に課題が見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究目的は、①リスク教育の取り扱いの歴史と学校教育での実践状況を明らかにする、②電源選択を題材にリスク概念の構築と技術の評価活用に必要な関連情報データベースの構築を図ることであり、その達成度は以下の通りである。 ①については、職業科の創設期から現在までの学習指導要領を調査し、リスクに関連のある項目を抽出した。また中学校技術分野の主要学会である日本産業技術教育学会の研究論文を調査し、実践状況を明らかにした。また原子力学会のリスクコミュニケーションに関する論文を調査した。しかしながら、放射線に関連した学会等の調査は十分ではなく、調査を継続する必要がある。一方で、現職教員に対するリスクに関する認知度を原子力のみならず技術分野の内容を網羅した形で調査し、現在の実施状況も調べているが、被験者数が十分でなく、調査を継続することが必要である。また、長崎大学及びいわき明星大学の学生を被験者として、同様の調査を実施し、リスク認知とリスク概念の現状を明らかにすることができた。 ②については、リスクに関連した授業での利用可能性を評価の視点として、福島第一原子力発電所の事故に関連した書籍、独立行政法人製品評価技術基盤機構や消費生活センター等の情報を調査した。 以上より、①では既存の研究成果の調査範囲が限定的であったが、学生や現職教員に対する調査をすることで、リスクに関する教育の現状把握を行っている点は評価できる。②では一次情報としてのデータ収集は行われたが、原子力のような大規模事故について、授業で利用可能な形式でのデータベース化はできていない。一方で湯沸かし器のようなエネルギー消費機器については、リスクを加味したデータ収集が行えた。課題として、リスク概念が学びやすい身近な機器・技術のデータを増やし、原子力を含めた電源インフラに関するデータの精緻化や表現方法を工夫することが挙げられる。
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今後の研究の推進方策 |
現職教員を対象としたリスクの授業に関する調査では、具体的な授業内容として、生徒にとっての身近な題材であることは勿論のこと、材料と加工に関する技術では工具・工作機械の使用が、エネルギー変換に関する技術では発電方法が、生物育成に関する技術では農薬の使用が、情報に関する技術ではネットワーク技術が多く挙げられた。一方で、確立の概念が不十分な生徒に対して、リスクの定義を学ばせることは困難面もあり、発達段階に応じたリスクの表現が必要であることが指摘された。また、リスクと同時に扱われる経済性や環境性などの評価項目に関する情報も必要であり、それを含めた分かりやすいデータベースの構築が求められている。これらの点を踏まえ、本年度の研究をさらに充実・発展させるために、被験者数を増やした調査を行うと共に、研究計画に沿って眼球運動測定装置等によるリスク概念の構築過程の分析や連想調査の結果を反映させたカリキュラムづくりを行い、実践授業での評価を実施する。
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