研究課題/領域番号 |
26285201
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
藤本 登 長崎大学, 教育学部, 教授 (60274510)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | リスク / 電源インフラ / ガバナンス / 技術教育 / 評価活用 |
研究実績の概要 |
福島第一原子力発電所事故は,科学・技術に対する国民の見方を多様化・偏在化させたが,国民のリスク認識・評価活用能力の未成熟さも示した。そこで,本研究では,中学校技術分野において生徒にリスク概念の構築をさせ,電源インフラの評価を可能にさせるカリキュラムを開発し,技術教育全体への展開を図る。前年度までの研究では,生徒・学生のリスク概念やリスク認知度の状況を把握(生徒のリスク概念は未確立で,94.9%の学生が曖昧など),脳血流量や視点の動きを利用したスマートフォンの学習阻害状況の把握,電源構成算出ソフトの開発を行った。本年度は,これらの研究成果を踏まえ,情報セキュリティーのウイルス感染リスクや電源に関するリスク情報の提示が脳血流量や視点の動きに与える影響を分析するとともに、中学生を対象にした未来の電源構成を考えさせる授業を行った。 その結果,大学生を対象とした情報に関する技術として,情報セキュリティーのウイルス感染リスクを扱った実験では,リスク認知の変化や脳血流量の変化からコンピューターのウイルス感染疑似体験のような視覚的に影響が大きいようなリスク情報を提示すると,リスク概念が発達する可能性が示され,事後アンケートからリスク対策に関する意識変化が見られた。また,エネルギー変換に関する技術として、電源の二酸化炭素排出原単位,年間死亡率,発電コストといった情報を文章と図・グラフで提示した場合の将来の電源構成を考えさせる実験では、脳血流量や視点の動きやアンケート調査から文章による説明よりも,図・グラフによる情報提示の方が有意に技術評価をしやすいことが示された。そして,中学生153名に行った2030年の電源構成を考えさせる授業から,リスク情報を提示しなければ,国の想定と比較して、再生可能エネルギーの利用割合を平均16%高め,石炭・原子力の利用割合を22.5%下げることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実施計画で示した「視線追尾システムや連想・アンケート調査による受講者の学習状況の分析」と「受講者が評価、選択した電源システムの分析と概念化の調査」について、大学生を対象にしたエネルギー変換に関する技術(現状と未来の電源構成の予測)と情報に関する技術(コンピューターのウイルス感染)について、視線追尾システムや脳血流計を用いた測定と連想・アンケート調査を実施した。その結果、図やグラフによるリスク情報の提示が有効であること、リスク対策に関する意識変化が確認された。一方で、大学生に対する「被験者の先行を考慮した最適電源構成算出ソフト」を用いた授業実践から、同ソフトによる中学校での授業は時数の関係で再検討が必要との教育関係者の意見があったことから、中学校での授業実践は、簡易の電源構成表示ソフトを作成し、実践を行った。なお、授業実践は、附属学校の担当教員の移動があり、公立の研究協力校で2月末に実施行ったため、国が示した電源構成と平均値の比較は行えたが、生徒一人ひとりの分析は現在行っているところであり、計画よりやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2月に行った授業実践の評価を5月中に行う。その後は、実施計画の内容を順次進める。まず、大学生を対象に行ったリスク情報の提示方法の検討と電源や情報に関するリスク認知等の研究成果を8月にある日本産業技術学会や日本エネルギー環境教育学会で発表する。また、前年度までに得た知見を活用して、中学校技術分野で行うリスクを踏まえた評価活用力の育成を図るカリキュラムを作成するとともに、授業で使用可能なリスク情報等の資料、ワークシート、電源構成に関するソフトを整理して、ホームページ等で公開する。これらの知見を活用して、「材料と加工に関する技術」と「生物育成に関する技術」の内容についてもカリキュラム開発を行い、研究を総括する。
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