本研究では,中学校技術分野においてリスク概念の構築に基づく技術・製品の評価を可能にさせるカリキュラムの開発を行い,その総括を行った。 まずリスク教育の状況調査から,医療・産業界等で行われているJIS9700を利用してリスク認知と評価及びその低減方法を当該教育に組み込む教育方法を提案した。また技術担当教員や生徒・学生のリスク認知調査から,既に便益を受けているX線検査等の技術の利用は肯定的であるが,原子力発電所近郊での生活等は否定的であり、リスク認知やマネージメント能力が低いことが示された。 そして電源インフラを扱った授業実践「地域の電力消費量を賄う発電方法の選択」を題材とした授業から,電源の経済・環境・社会性に注目・議論させる授業の方が生徒は原子力発電を選ぶ傾向を見せたが,2030年の電源構成を考えさせる授業では,日本政府が示した電源構成を示した生徒は1割以下と低く,ほとんどが再生可能エネルギーや火力発電に過度に依存していた。また「原子力を中心に話題提供による電源選択」の授業から,国の想定電源構成比と20%以内の整合度を考えた生徒は7%程度しかおらず,リスク情報を提示しなければ,国の想定と比較して,再生可能エネルギーの利用割合より平均16%高く,石炭・原子力の利用割合より平均22.5%低く見積もっており,リスク情報の提示の重要性が示された。なお脳血流量や視点の動きやアンケート調査から,文章による説明よりも,図・グラフによる情報提示の方が有意に技術評価をしやすいことが示された。 このような授業展開やリスク情報を,材料と加工・生物育成・情報に関する技術についても作成し,データベースとしてWebで公開した。材料と加工では授業実践を行った結果,リスクへの興味・関心に関する記述は見られなかったが,リスクの言葉の意味や考え方を理解している生徒の割合が高まった。
|