研究課題
「気候学・気象学及び水文学における水の安定同位体:レビュー」というタイトルの総説論文を発表した(原文は英語;Yoshimura, 2015)。これは、本基盤研究を含めたこれまでの水同位体を用いた研究を、特に観測技術とモデリング技術の進展に伴って急速に拡がっている利用価値に触れつつ、広くレビューするものである。加えて今後の方向性の例として、同位体プロキシデータを用いた気候モデルの直接的な検証と同位体情報を用いたデータ同化の可能性を挙げた。また、本基盤研究で行っているつくば市真瀬の水田での水同位体観測を継続し、3期分の極めて質の良いデータを入手した。すでに報告した水田における植生経由の蒸散の寄与率については、Water Resources Research誌に投稿した論文が採択され(Wei et al., 2015)、加えて、観測から得られた水蒸気同位体比の変動要因と、大規模な大気中の水蒸気輸送過程との関係を分析し、真瀬上空おける水蒸気へのローカルな地表面から寄与は年平均で16.0±12.3%、夏平均で20.5±12.9%と推算され、大気中の大規模な水蒸気輸送過程が水蒸気同位体比変動の第一の要因であることを明らかにした。この後半部分に関する論文は、Journal of Hydrology誌に投稿し、採択された(Wei et al., 2016)。さらに、植生のLAIと蒸散寄与率の関係性をヒントに、60以上の文献をあたり、様々な手法で得られた蒸散寄与率とLAIとの関係を調べた。その結果、6つの植生タイプにおけるLAIと蒸散寄与率の関係を定量化した。その式を、植生の全球分布及び水収支式から求めた蒸発散分布に適用することで、蒸散寄与率の全球分布及び平均値を求めた。その結果は、50-60%であり、近年複数発表された同位体比を用いた研究による値よりはかなり小さく、一般的な地表面モデルによる推定値により近い値であった。この研究については、2016年4月現在投稿準備中である。
2: おおむね順調に進展している
主だった論文を4編出版したほか、関連論文として9編の論文を出版することができた。また、同位体観測も順調に進み、3年分のデータを蓄積することができた。概ね順調に進んでいるとみてよいと考えている。
前年度に引き続きつくば市真瀬の試験水田での水蒸気・表層水同位体比観測を継続する。そういったレーザー分光計を用いた水蒸気同位体比観測は世界各地にて行われており、それらのデータを収集し、データ同化システムへの投入データとして整備する。また、同位体領域モデル(IsoRSM)を用いた水同位体比データ同化システムを構築し、全球版で行った理想実験を実施する。さらに、現在のIsoGSMでは地表面モデルにNOAHモデルを用いているが、同位体については蒸発散時の無分別を仮定しており、蒸発・蒸散割合の同定には使えない。従って、IsoMATSIRO(Yoshimura et al., 2006)など、蒸散時の非定常同位体分別過程を組み込んだ同位体陸面モデルをIsoGSMに組み込むか、NOAHに同位体過程を組み込んだIsoNOAHを作成するかのどちらかを選択し、データ同化システムに取り入れる。 最終年度であるため、それぞれの研究項目の成果を論文に取りまとめると同時に、同位体データ同化に関する国際会合を開催する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (14件) (うち国際共著 12件、 査読あり 14件、 謝辞記載あり 4件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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