研究課題/領域番号 |
26290029
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
笹岡 俊邦 新潟大学, 脳研究所, 教授 (50222005)
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研究分担者 |
藤澤 信義 新潟大学, 脳研究所, 助教 (50199311)
前田 宜俊 新潟大学, 脳研究所, 助教 (00754524)
小田 佳奈子 新潟大学, 脳研究所, 助教 (60708212)
佐藤 俊哉 北里大学, 医学部, 教授 (90359703)
大久保 直 北里大学, 医学部, 准教授 (10450719)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | D1ドーパミン受容体 / D2ドーパミン受容体 / 運動調節 / 大脳基底核回路 / パーキンソン病 / 時期特異的発現抑制 / 電気生理学的性質 / 発達期 |
研究実績の概要 |
私たちは、D1R及びD2Rの遺伝子操作マウスを用いてパーキンソン病の運動異常の機構解明の研究を進めてきた。D1R発現をドキシサイクリン投与でノックダウン(KD, 抑制)できるマウス(D1R KDマウス)を開発し、成体期にD1Rをノックダウンすると、自発運動量が低下し、大脳基底核の出力部のEntopeduncular nucleus (EPN, 脚内核)の抑制信号が消失したが、自発発火頻度と様式は不変であることを発見した。このことから、D1Rを介する情報伝達は、大脳基底核の「直接路」を通る信号の伝達と、運動の発現に不可欠であることを明らかにした(Chiken et al., 2015)。 また、小脳と線条体の直接路・間接路との相互作用を解明するため、小脳におけるImmediate early genes (IEG, 最初期遺伝子)の発現様式を解析し、小脳半球と小脳虫部に強い発現を見出した。これらのIEG発現は動物のハンドリングや体重測定のみでも見出され、視覚情報及び内耳の前庭の情報によりIEG発現が活性化することが考えられた(Nakamura et al., 2015)。 D1R欠損マウスは野生型マウスに比べ自発活動量が亢進し、一方、D1R KDマウスのD1R発現を成熟期に抑制すると自発活動量が低下した。両マウスともD1R欠損の状況であっても、自発運動量は全く逆の結果となる。その仕組みを明らかにする目的で、D1R欠損マウスと発達期、および成体期においてD1R KDしたマウスについて行動解析を行い、表現型の比較を行った結果、D1Rをノックダウンする時期により行動異常の現れ方に顕著な差が見られたことから、発生期、発達期と成体期において、それぞれD1Rの機能が異なることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
D1R発現をドキシサイクリン(Dox)投与でノックダウン(抑制)できるマウス(D1Rノックダウンマウス)を開発し、D1Rをノックダウンすると、自発運動量が低下し、大脳基底核の出力部のEntopeduncular nucleus (EPN, 脚内核)の抑制信号が消失したが、自発発火頻度と様式は不変であることを発見した。D1Rを介するドーパミン情報伝達は、直接路を介して運動の信号の抑制を解除し、運動を促進することを明らかにした(Chiken et al. 2015)。 また、コンジェニック化したD1R ストレートノックアウト(D1R欠損)マウスとD2R ストレートノックアウト(D2R欠損)マウスの行動解析により、D1R とD2Rは、それぞれ自発活動量、運動機能、運動学習機能には、異なる特性があることを見出した。小脳と線条体の直接路・間接路との相互作用を解明するため、小脳におけるImmediate early genes (IEG, 最初期遺伝子)の発現様式を解析し、小脳半球と小脳虫部に強い発現を見出した。これらの結果より、視覚情報及び内耳の前庭の情報によりIEG発現が活性化することが考えられた (Nakamura et al., 2015)。 D1Rノックアウトマウスと、発達期および成体期においてD1Rをノックダウンしたマウスを用いて行動レベルで比較解析を行い、各発達時期におけるD1Rの機能が明らかになりつつある。 現在まで、運動制御に関するD1R, D2Rを経由する情報の役割の解明について、当初の計画がおおむね順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
私たちが開発したD1Rノックダウン(KD)マウスを用いて、成熟期にD1Rが欠損すると、自発運動量が低下し、大脳基底核の出力部の脚内核 (EPN) の抑制信号が消失したが、自発発火頻度と様式は不変であることを発見した。この結果は、生理研の南部教授らによるパーキンソン病(PD)の運動障害の「ダイナミック活動説」を支持し、D1Rを介する情報伝達は、大脳基底核の「直接路」を通る信号の伝達と、運動の発現に不可欠であることを明らかにした。さらに、大脳基底核回路のD2R を介する間接路の運動制御の役割の解明のため、D1R KDマウスと同様にDoxで、D2R発現が抑制されるD2R KDマウスの作成を進める。D2R KDマウスを作成し、間接路の情報伝達を可逆的に遮断することにより、D1R KDマウスと同様に、1)24時間連続の自発運動量の計測、2)運動機能・学習機能を行動解析による評価、3)導入したD2Rの発現様式の解析、4)大脳基底核神経の電気生理学的解析を行なう。 また、コンジェニック化したD1R欠損マウスとD2R欠損マウスの行動を同じ条件下で解析することにより、D1R とD2Rの運動機能への役割を比較したところ、D1R欠損マウスは野生型マウスに比べ自発活動量が亢進し、一方、D1R KDマウスを用いて成体期にD1Rを抑制すると自発活動量が低下し、両マウスともD1R発現が欠損した状況であるが、自発運動量は全く逆の結果となる。その仕組みの解明のため、D1R KDマウスを用いて、成熟期と胎仔期・発達期において、D1R発現を抑制して自発運動量を解析し、また、生化学、組織レベルのデータと統合し、運動や情動制御におけるD1Rの機能について考察する。 この先の研究へ発展させるため、マーモセットを用いたPDモデル動物の開発研究に着手し、飼育の開始し、マーモセットの発生・生殖工学の実験系を立ち上げる。
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次年度使用額が生じた理由 |
分担研究者に、本研究期間全体で執行するように複数年度分の研究費を配分したことから、分担研究者の研究実施状況により、次年度に研究費執行の必要となったため、基金分の研究費の繰越を行ったことによる。
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次年度使用額の使用計画 |
D1ドーパミン受容体のノックダウンマウスの作成と解析と同様の方法で、D2ドーパミン受容体のノックダウンマウスを開発し解析する計画であり、胚操作による遺伝子改変マウス作成と飼育管理、および遺伝子発現解析と運動量解析など行動解析の経費、並びにサル類の実験に着手するための動物や物品等の経費に執行する計画である。
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