本研究は生きている細胞で働いている蛋白質を、そのままの状態で立体構造決定するNMR技術の開発を目的とする。具体的には、(1)目的蛋白質の領域選択的かつアミノ酸選択的な安定同位体標識技術の開発、(2)還元耐性スピンラベル試薬およびキレート試薬を用いたNMR測定解析技術の開発、(3)生きている細胞のままでNMR信号を帰属する技術の開発、(4)生きている細胞のままでの立体構造情報収集技術の開発、および、(5)高磁場DNP法などを駆使した生きている細胞での蛋白質の構造決定、を計画し、これらを実施した。本研究で得られた成果は以下の通り。 (1)目的蛋白質の領域選択的かつアミノ酸選択的な安定同位体標識技術の開発では、大腸菌でアミノ酸選択的かつ高効率な13C標識が可能な技術の開発に成功した。また、無細胞蛋白質合成系で立体構造解析のための重水素標識と13C標識を組み合わせるアミノ酸選択標識技術を開発した。(2)還元耐性スピンラベル試薬およびキレート試薬を用いたNMR測定解析技術の開発では、細胞内での立体構造解析に適用可能なPREやPCSを用いる精密構造解析法の開発に成功した。(3)生きている細胞のままでNMR信号を帰属する技術の開発、および、(4)生きている細胞のままでの立体構造情報収集技術の開発では、電気穿孔法を用いる蛋白質導入技術によって技術的な問題点が解消され、従来法の約2倍の感度でNMR測定を行うことが可能になった。(5)高磁場DNP法などを駆使した生きている細胞での蛋白質の構造決定では、全自動NMR構造解析システムの開発、効率的なメチル基間NOEの取得、その全自動NMR構造解析システムへの組み込みに成功し、細胞内での蛋白質の構造決定に目処を付けた。
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