研究課題/領域番号 |
26291079
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
渡辺 勝敏 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (00324955)
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研究分担者 |
馬渕 浩司 東京大学, 大気海洋研究所, 助教 (50401295)
小北 智之 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 准教授 (60372835)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 集団・種多様性 / 適応 / 淡水魚 / 古代湖 / 固有種 |
研究実績の概要 |
本研究は,古代湖・琵琶湖の魚類群集で見られる「非適応放散」的に生じた収斂的な湖沼適応の実態を,3つの異なる環境軸(沖合・深場・岩礁)に適応した複数の種群を対象にして明らかにし,それらの遺伝基盤をゲノム科学的アプローチにより追求することを目的として行っている.更新世中~後期に生じたと想定される多様な湖沼環境への進入に伴う適応進化の実態を解明することを目指し,次の4つの研究を軸に研究を展開している:(1) 形態計測や遺伝子発現分析に基づく湖沼への表現型適応の定量化,(2) 高精度の遺伝標識を用いた各種群の歴史人口動態の解明,(3) 候補遺伝子のスクリーニング,(4) ゲノムワイドな自然選択領域の発見的探索. 初年度である本年度は特に1と2に関して研究を進めた.1に関連して,3Dスキャナによるデータ取得と基本分析について習得した.遺伝標識で区別されたコイの琵琶湖在来種や他魚種の琵琶湖個体群の形態を比較・定量化した.ホンモロコ-タモロコペア種の純系家系と交雑家系を用い,沖合環境への生理的適応としてエネルギー産生関連遺伝子群の発現量比較と発現協調に関する分析を行った.またRNA-seq法を用いてそれらの比較トランスクリプトーム分析を進めた. 2に関連して,ミトコンドリアゲノムを対象にコストパフォーマンスの高いNGS分析法を確立した.またさまざまな保存状態の試料に適用できるダブル・キャプチャー法を用いたキャプチャー・ビーズ法による分析方法を確立した.またRNA-seqデータに基づくSNP探索の実験系と分析パイプラインを確立し,新たなSNPマーカーの開発を容易にした. 3と4に関係して,琵琶湖産コイ在来種4個体のゲノム・リシーケンスを行い,分析を進めている.また岩礁適応に関連するヒガイ類の色彩多型の遺伝基盤の解明のためにF1雑種家系を作出し,QTLと集団ゲノミクス分析に向けて飼育を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は4つの研究軸にそって研究を進めることとし,特に初年度は,まず (1) 琵琶湖集団の形態および生理的的特化の定量化と進化傾向に関する研究を進めることとした.コイ,モロコ類,カマツカ等複数の種群内で形態比較を進めるとともに,生理関連遺伝子の発現解析を通じて,生理特性の比較研究を実施した.また複数種群を対象に比較系統学的な枠組みの中でトランスクリプトーム分析を進展させた.基本的に計画に沿った研究の進捗が見られ,次年度以降の候補遺伝子分析に役立てながら,取りまとめを行う計画である. また,(2) 信頼性の高い歴史人口学的分析を行うために,ミトコンドリアゲノムおよび核ゲノムを対象とした効率的な多量SNP開発と適用に関して研究を進めた.これらの基礎技術と解析手法を確立・改善することができ,その過程で一部の対象種からデータを取得した.これから分析手法を体系的に展開し,実際のデータ取得を進め,解析,取りまとめを行っていく. また2,3年目に実施するQTL分析等に向けて,交配家系の作出や維持を計画通り進めている.
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今後の研究の推進方策 |
2年度以降も,分担・連携研究者間の協力連携のもと,着実に研究を推進していく. 初年度に,本計画に必要となる分析手法の導入・確立がなされたので,2年度目から博士研究員を雇用し,必要となる体系的なデータ取得を効果的に進める予定である.特に削減された予算の中,最大限のデータを得るために,NGSによるデータ取得をより集約的・効率的に実現していくことを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験系の立ち上げ等のため,当初計画していた人件費の支出を抑えることにより,物品費に重点を置いた.そのため,予算額と支出額に差が生じた.
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次年度使用額の使用計画 |
差額分は,特に次年度の人件費に充当する.
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