研究実績の概要 |
医学生理学研究に頻用されているマウス・ラットは動脈硬化に抵抗性があることが知られている。そこで、生理学的な研究に使いやすいラットで、遺伝子改変技術によって動脈硬化のモデルができれば、動脈硬化とそれをベースにした心筋梗塞や脳梗塞の病態の解明に有用である。本研究では、高血圧の遺伝的モデルラットとして高い評価を得ているspontaneously hypertensive rat (SHR)に新たに開発されたゲノム編集技術を応用することで、高血圧と動脈硬化を同時に発症するモデルを開発し、その病態を解明することを目的としている。 現在、Apoe-knockout, Prdx2-knockout, Apoe, Prdx2-double knockout SHRの3系統を確立し、その表現型の検索を行っている。いずれも高血圧という特性を維持しており、Apoe-KOでは、普通食、高脂肪食負荷のいずれにおいても高コレステロール血症を起こしていること、Prdx2-KOでは、酸化ストレスの亢進が起こっていることを確認できた。また、高脂肪食負荷によってSHRでは起こらない動脈への高度の脂肪沈着が起こることが明らかとなった。しかし、高脂肪食負荷の場合、1ヶ月程度で突然死する個体が多数みられることがわかった。この段階では動脈硬化はさほど強いとはいえず、その原因について現在検討するとともに、突然死を起こさず動脈硬化の進展を観察できる餌の条件を検討している。Prdx2単独のKOでは、食塩負荷による血圧上昇と脳卒中発症がSHRより高い傾向がみられ、現在追試を行っている。 Akt1-knockout SHRについては、雌のホモが不妊であることに加え、ヘテロの交配においても産仔数が少なく、思うように実験に使用できていない。解剖学的にはやや体格が小さく、脂肪組織の発育不良があることがわかった。 いずれのKO系統もNational BioResource Project-Ratに寄託済みで、研究者の使用が可能である。
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