研究課題/領域番号 |
26293129
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
植田 正 九州大学, 薬学研究院, 教授 (90184928)
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研究分担者 |
白石 充典 九州大学, 薬学研究院, 助教 (00380527)
阿部 義人 九州大学, 薬学研究院, 准教授 (60315091)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 薬理学 / 抗体工学 |
研究実績の概要 |
ラットP2X4分子はATPが結合することにより駆動するカルシウムイオンチャネルである。P2X4は神経障害性疼痛の治療のターゲット分子であり、疾患増悪時に発現が向上することが知られている。その蛋白質に特異的かつ強く結合するモノクローナル抗体またはFabは神経障害性疼痛の病理診断等に有益である。平成26年度はATPの結合部位周辺に位置するドメイン(ヘッドドメイン:以下HDと記す)とスカシガイヘモシアニンとの融合蛋白質とラットに投与して、定法によりHDに強く結合するモノクローナル抗体を数個確立することができた。その中でFabの一次配列を決定できたものの内、HDとの複合体の解離定数が数十nMのFabのリコンビナントを得ることに成功した。平成27年度においては、HDに強く結合するFabとHDとの相互作用部位を同定し、より強固にHDの結合するFabの調製を試みた。相互作用部位の特定には、X線結晶解析が有益である。そこで、FabとHDとの複合体の結晶化を市販されている結晶化スクリーニングキットを用いて可能な限り実施したが、大きな結晶を得ることができなかった。そこで、既存Fabの抗原との相互作用情報を基に、Fabの相互作用部位を推定し、その部位をAlaに置換する変異体を数十個作製した。これらは我々が報告した方法(Fujii et al. 2007;大腸菌による蛋白質の発現および試験管内での再生)により調製したが、この変異体の中からHDに強く結合するかどうかを迅速に判定する簡便な方法を確立した。その方法を用いて、Fabの中でHDに強く結合する数個のアミノ酸領域(ホットスポット)を同定した。 本研究については知的財産権獲得の可能性があるので、九州大学の関係部署と協議をしており、現段階での学会、論文発表は控えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
HDに強く結合するFabとHDとのX線結晶解析は成功しなかったが、HDに強く結合するFabのホットスポット(HDとの相互作用に重要なアミノ酸残基)を同定することに成功した。ついては、HDとより強く結合するFabを創製する上において、アミノ酸変異を施す領域を浮き彫りにすることができた。この成果は次年度以降の研究においてのマイルストーンであり、研究は概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
HDに強く結合するFabのホットスポットが同定されたことから、今後は核磁気共鳴法、化学修飾法によるHDとFabとの相互作用部位の情報を基に、ホットスポット以外のアミノ酸部位を変異させたFabを調製し、HDにより強く結合するFabの創製を目指したデザインすることが可能となった。このことは、P2X4分子に特異的に強く結合するモノクローナル抗体またはFab分子を用いて、神経障害性疼痛の病態の程度を客観的に評価する研究目的を推進する結果である。 一方、平成27年度の実験において、ラット生細胞由来のP2X4分子には、このFabは強く結合しないという予備的な実験結果が得られた。この原因は現在のところ不明である。ラット生細胞ではP2X4が蛋白質の分子量より高分子であるという結果から考察すると糖鎖の付加による可能性がでてきた。すなわち、HDには糖鎖結合部位が存在しないことから、糖鎖が抗体のHDへの結合の邪魔をしている(マスキング効果)可能性がある。そこで、この再現性を検証するとともに、糖鎖のマスキング効果に勝るように、HDに速くかつ強く結合するFabの創製を実施する必要がある。併せて、このFabの病理診断での利用も考慮にいれ、ラット生細胞P2X4を体外に取り出し、糖鎖を酵素で分解したものに本研究で作成したFabが結合するかどうかを検証して行く必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はP2X4のHDに強く結合するヒト型Fabの調製した。本研究内容については知的財産権があるかどうかについて、現在九州大学関係部署と交渉している。その後、さらに追加実験が必要であれば重点的に研究を実施する必要があるため、次年度へ一部基金助成金を繰り越した。また、知的財産権に関する交渉が終了した後には、論文の投稿る。採択された論文は、金額が折り合えばOpen Acessとして公表したいので、同様の繰り越しを行った。
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次年度使用額の使用計画 |
特許取得を目指して広範な実験を実施するための消耗品として使用する。また、論文の公表の際の論文掲載費に使用する。
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