研究課題
免疫不全症・免疫異常症を背景とする血球減少症の分子基盤を解明するために、4つの柱を立てて解析した。抗体の多様性及び偏倚性の解析では、IgH, TCRalpha鎖、beta鎖のレパートア解析システムを立ち上げた。教室で独自に組み立てた5’RACE系と、iRepertoireシステムを用いて、MiSeqにて解析を実施した。分類不能型免疫不全症(CVID)などの抗体産生不全症においてVH領域での偏りが認められ、今後自己免疫クローンとの関連性について検証を進める予定である。血球貪食については、重症複合免疫不全症やSTAT1機能獲得型変異において、その現象が認められており、サイトカインプロファイリングを含め、系統的な解析を実施した。幹細胞からの血球分化系については、今までに検討してきた、Wiskott-Aldrich症候群からのiPS細胞を用いた血小板への分化系について、患者数を増やして確認実験を行い、分化能の異常を見いだした。今後は遺伝子修復を行い、分化能が正常化するかどうかの検討が必要となる。好中球減少については、継続して活性酸素産生過剰に焦点を絞り検討を継続した。現在のところ好中球減少を示すCVIDで活性酸素過剰産生を呈するものは見いだせていない。血球減少を認めるCVIDにおいては次世代シークエンサー(HiSeq1500, NextSeq)を用いた自施設での解析系が立ち上がった。現時点では本施設にて診療にあたる約100名のCVIDの内、約30家系の検体が蓄積しており、現在ライブラリーを作成して、検討を開始するところである。
2: おおむね順調に進展している
研究についてはほぼ予定通り達成されている。CVIDについては当初の60-80症例から、1年の間にさらに患者数が蓄積し、合計100症例程度からの検体を取得できるようになった。血球減少症の分子基盤の1つである自己免疫については、iRepartoireを用いたレパートア解析にて、bar codeの不適合からデータの解析に工夫を必要としているが、概ね計画以上に検討が進んでいる。数理的な解析システムについては、既存のソフトに加えてさらならう開発が必要か、検討が行われている。iPS細胞の樹立(造血幹細胞内因性異常の解析)については、CVIDがヘテロな集団を含むため、幹細胞機能に問題があることが推察される汎血球減少例を中心に、検体を集積している。一方、本年度の研究実施期間に単球・樹状細胞・B細胞分化異常症が見いだされ、iPS細胞の樹立を進めるべく、線維芽細胞及び骨髄細胞(凍結)を用意した。好中球減少や血球貪食を呈する疾患群についても、サイトカインプロファイルや細胞死解析が進み、次年度への橋渡しが行える状態である。CVID責任遺伝子探索においては、血球減少を呈していない2症例で候補遺伝子の機能検討まで進んでいるが、同様の手法にて責任遺伝子が絞り込まれることが期待される。本年度は新規次世代シークエンサーやライブラリー作成機器の導入などがあり、テストランが行われた。現時点では24名のライブラリーを作成するまでに至り、来年度の解析に向けて万全の体制が整ったと考えている。
今後は、血球減少を示すCVID患者において本格的な検討にあたる。本年度にほぼ患者が層別化されたため、今後は推定される原因に沿って解析を進める。まず、偏倚性を示すクローンに加えて、CDR3が長いIgHが自己反応性であることが示されているので、データを蓄積し、タンパク構造モデルなどから病態との関連について検討を進める。血球貪食については、T細胞以外の免疫担当細胞の関与について、サイトカイン産生能を含めた検討を行う。好中球の細胞死についてはアポトーシスに加えて、NETosisやnecrosisなど、そのほかの細胞死の形態についても検討を進める予定である。iPS細胞を用いた造血幹細胞あるいは初期分化レベルでの解析については、まずは単球・樹状細胞(+B細胞)への分化異常を中心に検討を進める。患者からはiPS細胞を作成し、好中球、単球、樹状細胞、B細胞に分化させると共に、骨髄CD34細胞からの分化系も同時に解析する予定である。CVIDの責任遺伝子の次世代シークエンサー(全エクソン)解析については本年は合計50-60家系(あるいは患者単独)を予定する。そのうち10症例程度が明らかな血球減少を呈しており、候補遺伝子の策定に注力する。これらの患者では推定される原因に沿って平行して解析を進める。検討が進めば、自己免疫性溶血性貧血や、慢性免疫性(特発性)血小板減少患者において、特に若年者や家族歴のある症例について、上記の解析に着手したいと考えている。
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