研究課題
(1)高規格AAVベクター製造法の開発:前年度に引き続き、高純度ベクターの大規模製造に適したプロトコルの検証を推進した。アデノウイルス初期遺伝子群やE1B19kの機能を補完することでAAV複製効率を増強させるBcl-xL遺伝子を導入した独自開発の機能強化型293EB細胞を応用した。高密度培養に向け、293EB細胞を用い、培地、培養条件の検討を行った。固相支持担体を用い、バイオリアクターによる高密度培養を試み、細胞数あたりで静置培養と同等の生産効率にてベクターを製造することに成功した。さらに、他のマイクロキャリア候補に関し、293EB細胞の付着性を検討した。(2)脳神経疾患における新規タンパク質補充療法:引き続き、脳神経疾患治療への応用研究を推進した。間葉系幹細胞において1型AAVベクターの導入効率が高いことを確認し、炎症制御因子発現間葉系幹細胞を作製し、培養細胞の系で発現を確認した。同様に、遺伝子修飾歯髄幹細胞を作製し発現を確認した。MCA閉塞SDラットにおいて、脳虚血再灌流後に外来遺伝子のex vivo導入を行った間葉系幹細胞や歯髄幹細胞を血管内投与し、免疫染色やTTC染色により、炎症細胞浸潤、梗塞体積および浮腫体積を検証し、ペナンブラの保護による治療効果を確認した。(3)ベクター産生型標的細胞によるin situ遺伝子治療:引き続き、間葉系幹細胞や歯髄由来幹細胞を応用したベクター産生型細胞の機能を検証した。ルシフェラーゼ発現ベクターのコンポーネントを間葉系幹細胞や歯髄由来幹細胞に導入し、培養細胞の系で遺伝子発現およびベクター産生を評価した。外来遺伝子修飾MSCsをマウスに左心室腔経由で全身投与し、外来遺伝子発現や安全性を検証した。投与直後に全身のイメージングで全身循環が確認され、細胞投与に伴う有害事象は認められなかった。
2: おおむね順調に進展している
効率的なベクター複製が可能な高密度培養方法の開発を推進した。この細胞を用い、接着細胞と同等の生産効率にてベクターを作製することに成功した。また、従来はin vivo法を中心に使用されていたAAVベクターをex vivo法に応用することで、染色体を傷つけずに安全に細胞治療を実施することが可能となった。野生型と異なり組換え型では染色体に挿入されにくく安全性が高い。脳組織への遺伝子導入や脳神経疾患の治療実験において、安全に長期的な効果が期待できる。また、間葉系幹細胞に加え歯髄由来幹細胞についても、ウイルス産生効果の検討を行った。
従来ベクター製造において高密度培養とウイルス複製に用いられていた昆虫細胞ではラブドウイルスの汚染が指摘されたため、高密度培養とベクター複製が可能なヒト由来のウイルス高産生細胞の開発が急務である。本研究においては従来培った経験の蓄積を応用し、高機能なベクター複製細胞と高密度培養系を開発する。また、間葉系幹細胞や歯髄由来幹細胞を基盤としたベクター産生細胞を構築し、ベクターコンポーネント導入条件やベクター複製条件を検証することで、腫瘍性疾患や炎症性疾患の治療研究を推進する。
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