研究課題/領域番号 |
26302010
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研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
佐野 貴司 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, グループ長 (40329579)
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研究分担者 |
中西 正男 千葉大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (80222165)
Tejada Maria・L・G 国立研究開発法人海洋研究開発機構, その他部局等, 研究員 (40598778)
石川 晃 東京大学, 総合文化研究科, 助教 (20524507)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 火山 / 岩石・鉱物・鉱床学 / 地殻・マントル物質 / 地球化学 / 地球・惑星内部構造 / 地質学 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、海洋研究開発機構の研究船「かいれい」を用いたオントンジャワ海台東突出部の北側にある海山列の調査(KR16-04)を行い、本科研費の多くは、この航海へ参加するための交通費に使用した。なお、船上での地球物理データ解析に必要なコンピュータやその部品の購入も行った。 海底地形調査の結果、全ての海山は伸長しており(長さ50km程度まで、幅約20km、高さ約2000m)、頂部には海嶺のような地形が見られた。海山の伸長方向は北東-南西であり、海嶺状の頂部には円頂丘(底面径が約2km、高さ約300m)が並んでいた。また、当初の予想通り、海嶺状海山は北東-南西方向へ配列していることが確認できた。また、今後各海山の下の構造を知る上で有用と考えている重力データも得ることに成功した。さらに地磁気縞模様を決定するために必要な地磁気データも取得した。 シングルチャンネル音波探査装置による海底地下構造探査の結果、火山岩からなる基盤岩の反射面は海山の急斜面以外では確認することができた。水深の深い平面に近い部分では堆積物層内にも基盤岩層内にも複数の反射面が見られた。一般的に海山沿いの地下構造データは複雑であるが、スランプ構造や断層の存在が示唆された。 ドレッジによる岩石採取も9地点で行い、7地点で火山岩を採取することに成功した。各ドレッジでは堆積物、マンガン団塊、少量の浮遊してきた軽石なども回収された。ほぼ全ての火山岩は厚いマンガン殻に覆われていたが、低変質の試料もあった。そのため、これら試料は放射性年代測定や地球化学的研究に適していると判断される。そこで、まず比較的新鮮な17試料についてオレゴン州立大学で40Ar-39Ar年代測定を行うことにした。 また、前年度から持ち越していたシャツキーライズ海台東方の応神ライズ海山群から採取した火山岩の微量元素分析とSr, Nd, Pb, Hf分析も行った。これら分析に必要な人件費として謝金を利用した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していたオントンジャワ海台東突出部の北側にある海山列の調査(KR16-04)は順調に実施された。この航海により詳細な地形、重力、地磁気のデータを得ると共に、合計260kmにも及ぶ2観測線でシングルチャンネル音波探査装置による海底地下構造探査を行うことができた。また当初の予想通り、海山が北東-南西方向へ配列していることが確認できた。この海山列と平成26年度に調査した応神ライズの海山列を比較し、今後、巨大海台に隣接する火山列の形成過程についての議論ができると期待している。さらに、ドレッジを行った9地点中の7地点で我々の目当てであった火山岩を採取することができたのは大きな成果である。ただし、航海が年度末であったため、採取した火山岩試料の整理や化学分析は年度内に行うことができなかった。これは次年度の課題である。 前年度に採取した応神ライズ海山群の火山岩に関しては、年度の前半に集中して行うことができ、予定していた記載、微量元素分析、Sr, Nd, Pb, Hf同位体比分析が終了した。また、オレゴン州立大学での40Ar-39Ar年代測定もほぼ終了し、いくつかの試料について、満足のいく年代値を得ることに成功した。これらデータを考え合わせ、国際誌へ投稿するのが今後の目標の1つである。 平成27年度の最も大きな成果は、本プロジェクトの対象である太平洋巨大海台に関する研究成果を査読付きの科学雑誌へ15本(大多数の14本が国際誌)も掲載できたことである。さらに、巨大海台に関する一般向けの新書(講談社ブルーバックス)を出版できたことも大きい。巨大海台は地球科学分野での重要な研究対象であるが、一般にあまり知られていないという問題があった。しかし、この本の出版により、広く国民に研究の重要性を伝えることができたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度の研究航海は平成29年1~2月に行われるため(後述)、年度の前半は試料整理、記載、化学分析に専念する。まずは、前年度に採取したオントンジャワ海台東突出部北部の火山列から採取した火山岩試料の整理・記載から始める。想定よりもずっと多くの岩石が採取されたため(500kgを超える)、整理には多くの時間がかかると予想している。整理・記載の終了後は、蛍光X線分析装置や誘導結合プラズマ質量分析装置を用いた全岩の主成分および微量元素分析を開始するが、年度内に全ての分析を終了できない可能性がある。さらに表面電離型質量分析装置によるSr, Nd, Pb同位体比分析も行う必要があるが、これは次年度の作業となるであろう。分析が終了した岩石試料に関しては、国立科学博物館での登録作業を行い、収蔵庫へ収納し、ナショナルコレクションとして永久保存する手続きをする。この登録手続きに必要な人件費が謝金として申請されている。 なお、前年度までに記載および化学分析データが出そろった応神ライズ海山群の研究成果を論文として書き上げ、国際誌へ投稿する予定である。この論文執筆に必要な英文校閲料をその他の経費として計上した。 平成28年度は「白鳳丸」を用いてソロモン諸島沖のオントンジャワ海台を調査する航海(KH17-J01)を行う予定である。そこで予算の多くはKH17-J01航海に必要な旅費や物品費用に使う。この航海の目的はドレッジによりオントンジャワ海台をつくる下位の基盤岩を採取することである。オントンジャワ海台は厚さ40kmを超える巨大火山であるが、これまでは2.7kmよりも浅い部分の岩石しか採取されていない。つまり、火山体の1割も分かっていないのが現状である。もし、3kmを超える深さの火成岩が採取できたら、オントンジャワ海台の形成史について、より詳細に知ることができると期待している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の調査航海の帰港地はミクロネシアのポンペイという遠隔地であり、6~7名の研究者が参加する。このため旅費は高額になると予想し、次年度の旅費を少しでも多く確保することにした。なお,今年度、支出予定として算出していた物品を安く購入できたので、発生した余剰金を次年度へ充てても研究に支障は生じなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の予算の多くは「白鳳丸」を用いたソロモン諸島沖のオントンジャワ海台調査(KH17-J01)に必要な旅費や物品費用に使う予定である。この航海の帰航地はミクロネシアのポンペイという遠隔地であり、6~7名の研究者が参加するため、旅費は高額になると予想している。
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