研究課題
平成28年度はオントンジャワ海台を主な対象とした。この巨大海台は日本国土の約5倍の面積に最大40kmもの厚さの火成岩が分布し、その形成はプルームモデルにより説明されている。プルームモデルとは、地球深部に起源を持つ巨大な高温の上昇流がアセノスフェア最上部で多量に溶融するというアイデアである。しかし、火山岩を調査してのプルームモデルの検証はほとんど進んでいない。これはオントンジャワ海台表層部の火成岩しか採取していないことに原因がある。過去の掘削により採取された火成岩の厚さは300 mにも満たないからである。本年度の科研費の多くは、平成29年1月から2月にかけて行われたオントンジャワ海台南端部の調査に必要な旅費、輸送費、消耗品等に使用した。これは海洋研究開発機構の研究船「白鳳丸」を用いて、深部地殻が露出していそうな急斜面においてドレッジを行い、火成岩の採取を行った航海である(KH-17-J01航海)。ドレッジに必要な海底地形や重力データを解析・評価するためには、最新の解析ソフト(バージョンアップや保守も含む)やハードディスクなどを船上に持ち込む必要があり、これらも消耗品やその他の費用として支出した。その結果、8地点において火成岩を得ることができた。火成岩の種類は、過去にオントンジャワ海台から得られている玄武岩だけでなく、ドレライトも採取された。これは玄武岩溶岩よりも深部の火山体を構成している岩石であると推定され、今後の記載および化学分析によりプルームモデルの検証が進むと期待される。また,前年度に採取したオントンジャワ海台東突出部の北側にある海山列の溶岩について記載や全岩化学組成分析を行った。これに必要な消耗品や補助人件費も支出した。さらに前年度までに分析が終了しているシャツキーライズ海台東方の応神ライズ海山群についてマグマ生成モデルを提案し、国際学会にて報告を行った。
2: おおむね順調に進展している
予定していたオントンジャワ海台南端部(マライタ島の北東沖)でのドレッジ(KH-17-J01航海)は順調に実施された。この航海により大量の新鮮な火成岩を採取することに成功した。前年度、オントンジャワ海台東突出部の北側にある海山列で行ったドレッジでは、残念ながら変質の激しい火山岩しか採取することができなかったのに比べると、これは大きな成果である。ただし、航海が年度末であったため、採取した火山岩試料の整理や化学分析は年度内に開始できなかった。これは次年度の課題である。前年度に採取したオントンジャワ海台東突出部の北側にある海山列の火山岩に関しては、年度の前半に集中して行うことができ、予定していた記載および蛍光X線装置を用いた主成分および一部の微量元素分析は終了した。しかし、主成分元素分析の結果、変質の激しい岩石しか採取できなかったことが判明したので、誘導結合プラズマ質量分析装置を用いた微量元素分析およびNd-Sr-Pb-Hf同位体比分析は見合わせている。今後、ある程度新鮮な火山岩のクリーニングを行い、さらなる化学分析を試みる。
平成29年度の予算の多くは「かいれい」を用いたシャツキー海台の南端部に存在するタム山塊調査の航海(KR17-13)に必要な旅費や物品費用に使う予定である。この航海ではタム山塊上に存在する複数の海山の詳細な地形、重力、地磁気のデータを取得する。この観測データを用いて海山の分布状況を把握する。また、ドレッジにより火山岩の採取を目指す。ドレッジにより採取された火山岩をシャツキー海台本体の火山岩と比較し、噴出年代、化学組成の違いについて議論する。さらに、ドレッジャーには水中カメラを設置して海底の撮影を行うため、海山を形成する溶岩流やスコリア丘を観察し、層序の確認も行う。また、前年度のKH-17-J01航海においてオントンジャワ海台から採取した火成岩について試料整理、記載、化学分析を行う。火成岩は想定よりもずっと多く採取されたため、整理には多くの時間がかかると予想している。整理・記載の終了後は、蛍光X線分析装置や誘導結合プラズマ質量分析装置を用いた全岩の主成分および微量元素分析を開始する。さらに、平成27年度のKR16-04航海でオントンジャワ海台から採取された火山岩について、ある程度変質の少ない試料を選出し、微量元素および同位体比分析を行う。また、KR16-04試料に関しては、オレゴン州立大学での40Ar-39Ar年代測定に使用する試料は選出した。平成29年度予算の一部は、この分析費用に充てる予定である。なお、前年度までに記載および化学分析データが出そろった応神ライズ海山群の研究成果を論文として書き上げ、国際誌へ投稿する予定である。この論文執筆に必要な英文校閲料をその他の経費として計上した。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 8件、 査読あり 11件、 謝辞記載あり 1件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (16件) (うち国際学会 12件、 招待講演 6件) 図書 (2件)
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