研究課題/領域番号 |
26310307
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
柘植 尚志 名古屋大学, 生命農学研究科, 教授 (30192644)
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研究分担者 |
村瀬 潤 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (30285241)
北野 英己 名古屋大学, 生物機能開発利用研究センター, 教授 (50144184)
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研究期間 (年度) |
2014-07-18 – 2017-03-31
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キーワード | 食料循環 / 土壌微生物 / 作物生産 |
研究実績の概要 |
(1) 連用土壌における土壌微生物叢動態のプロファイリング(分担者村瀬・代表者柘植): 化肥区、慣行区、コーヒー区、厩肥区および無肥区について、ハクサイの定植前と定植1か月後の各区(2畝)土壌からそれぞれDNA(5処理区×2畝=10サンプル、定植前、定植後で合計20サンプル)を抽出した。細菌叢と糸状菌叢を解析対象として、各サンプルからリボソームRNA遺伝子(rDNA)の一部領域をPCR増幅し、PCR産物を次世代シークエンサーによって解析した。現在、得られた配列情報から、各区の細菌種と糸状菌種の分布データを整理し、微生物叢プロファイルの作成を進めている。 (2) 厩肥連用土壌の病害抑止効果における微生物機能の評価(代表者柘植): 厩肥区は、顕著なハクサイ根こぶ病の抑止効果を示す。化肥区、慣行区、コーヒー区および厩肥区土壌のメロンつる割病(Fusarium oxysporum f. sp. melonis)に対する抑止効果をポット試験によって検定した。その結果、厩肥区土壌のみが抑止効果を有すること、ガス滅菌、オートクレーブ滅菌した厩肥区土壌ではその効果が失われることを確認した。どちらの滅菌方法でも病害抑止効果が失われることから、抑止効果には土壌の生物性(微生物)が関与することが明らかとなった。 (3) 作物生産への施肥管理の効果の評価(分担者北野・代表者柘植): 化肥区に比べ慣行区と厩肥区、特に厩肥区ではトウモロコシ、ハクサイどちらに対しても顕著な成育促進効果が認められる。今年度はすでにトウモロコシの収穫を終了していたため、秋作ハクサイについて、成育、根こぶ病の発生を調査し、例年と同様な結果を得た。また、各区土壌を用いてメロンを栽培し、厩肥区土壌には成育促進効果のあることを確認した。また、ガス滅菌またはオートクレーブ滅菌した厩肥区土壌はさらに高い成育促進効果を示すこと、すなわち土壌微生物がむしろ成育を抑制する可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
土壌の微生物叢解析については、次世代シークエンサー解析によって、質・量ともに満足できる配列情報が得られた。現在、データを整理し、微生物叢プロファイルを作成中であるが、各区の畦間でのばらつきは小さく、5つの区間での違いも見出されている。 厩肥区土壌が、ハクサイ根こぶ病だけでなく、メロンつる割病の抑止効果を持つことをポット試験によって確認するとともに、その効果が微生物によることをガス滅菌またはオートクレーブ滅菌土壌を用いて明らかすることができた。 各区土壌を用いたメロンの成育調査によって、厩肥区土壌がメロンに対しても成育促進効果を示すことを確認した。さらに、ガス滅菌またはオートクレーブ滅菌した厩肥区土壌がさらに高い成育促進効果を示すことを見出した。当初、“豊かな微生物叢”が作物成育にもプラスに働くと予想していたが、この結果はそれに反するもので、土壌微生物がむしろ成育を抑制することを示唆する、興味深い結果と考えている。 以上のように、今年度は、当初予定した研究をほぼ実施することができ、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は投入資材と各区土壌で栽培したハクサイの根圏土壌の微生物叢解析を実施する。今年度実施した非根圏の微生物叢プロファイルの結果と合わせ、異なる施肥管理によって育成される微生物叢の違い、作物栽培に伴う微生物叢の動態、投入資材由来微生物叢と土着微生物叢の動態などについて総合的に検証できるものと期待している。 厩肥連用土壌の病害抑止効果については、細菌病に対する抑止性を検定する。今年度、厩肥区土壌がメロンつる割病抑止効果を有し、さらにその効果が微生物によることを確認した。また、滅菌した厩肥区土壌が非滅菌土壌に比べ、メロンの成育促進効果を示すことを見出した。以上の結果は、厩肥区土壌の病害抑止性には、土壌微生物の病原菌に対する拮抗作用に加え、土壌微生物が植物にストレスとなり、抵抗性を誘導していることを示唆した。平成27年度以降は、厩肥区土壌の微生物の拮抗作用をさらに検証するとともに、植物の抵抗性誘導という視点からも研究を進める。 上述したように、厩肥区土壌では微生物がむしろメロンの成育を抑制することが示唆された。平成27年度以降は、非滅菌土壌と滅菌土壌で各種作物を栽培し、作物の成育に対する微生物の効果についてさらに検証する。また、連用圃場におけるラジコンヘリ・リモートセンシングを用いた作物診断技術の応用を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月初めに土壌DNAを精製するための試薬を購入しようとしたが、在庫切れで入手できなかった。結局、4月以降でないと入手できないことが年度末に判明し、次年度使用額(76,392円)が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額(76千円)と当初予定していた予算額(4,100千円)を合わせた4,176千円の使用計画は以下の通りである。 微生物叢解析のための次世代シークエンサー受託分析に約1,500千円、学会参加等旅費300千円、実験補助人件費200千円、残り2,176千円は菌叢解析に用いるPCR装置、圃場管理用機器・資材、植物育成用資材、遺伝子実験用試薬、培養用試薬、ガラス・プラスチック器具など物品費として使用予定である。
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